感染者3000人突破でも中止の考えなし
「復興五輪」がいつの間にか姿を消し、次には「コロナに打ち勝った証し」が、そして打ち勝てないことが明白になると、今度は「コロナと闘う姿」や「困難を乗り越えて成功させる」というスピリチュアルな世界に日本政府は迷入していくことになった。
政府は批判の声をかき消すように“安全安心”を必死にアピールし続けるが、その根拠を問われても頑なに明示しようとしない。「開催断念するのはどのような事態に陥った場合か」という問いに対しても不誠実な態度を貫きとおし、開催に突入した。その結果が今である。
7月28日、ついに都内での新規感染者数が初めて3000人を突破した。政府はこの感染急拡大を見ても、五輪との因果関係は証明できないとして中止する根拠とはならないとの見解を示すに違いない。じっさい菅首相は前日のぶら下がり会見において、感染急拡大の現状にあっても人流は減っているなどとして中止する考えのないことを明言。3000人突破の報を受けても記者の質問を無視して素通りした。
公明党の石井啓一幹事長は「現在の感染者数は2週間前を反映しているのだから開会とは関係ない」と発言し、IOCのマーク・アダムス広報部長も「パラレルワールドみたいなものだ」として五輪と感染再拡大は無関係との認識を強調した。
五輪だけが原因であると特定する必要はない
Twitterでは #オリンピックは関係ない というタグまで現れ、むしろ多くの人が自宅にこもってテレビで観戦することで人流を減らすことができるなどという奇妙な五輪擁護論まで出てくるようになってきた。
もちろん感染拡大にはさまざまな因子が絡みあうから、五輪という単一の因子で感染急拡大の原因を説明することはできないだろう。しかし冷静に考えれば、五輪だけが原因であると特定する必要は一切ないのである。
感染者急増と医療資源枯渇という「事実」と、国内外から多数の人を首都圏に呼び込む世界的イベントが行われている「事実」、これら2つの厳然たる「事実」が同時に首都圏に併存しているという「事実」さえあれば十分なのだ。
そしてこの2つの事実が併存することによって、感染制御と医療が五輪開催によって妨害されている「事実」も生じる。この事実の存在こそが、私も含め多くの人が開催中止を訴えてきた理由である。
では五輪開催は、医療と感染制御にいかなる妨げをもたらしているのだろうか。