※本稿は、鈴木康弘『成功=ヒト×DX デジタル初心者のためのDX企業再生の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
既存事業でのDXは「起業」よりも難しい
「DXに何度も挑戦していますが、なかなかうまく進まないのです」
最近、企業の担当者から、このような相談を受けることが多くなりました。
話を聞くと、その原因は「推進体制」にあることがほとんどです。これは、DXの担当者が経営者と二人三脚で協力しつつ、組織横断で動き、外部を巻き込んでDXを成功に導くことです。
私は経験上、既存事業でDXを推進するほうが、起業より難しいと思っています。その理由は、「環境の違いによる人の意識」にあります。ゼロからの起業であれば、関係者の意識も未来を向いているので、体制をつくりあげることはそれほど難しいことではありません。
一方、DXの場合は、既存のビジネスの成功体験を一度捨てたうえで、新しい意識で体制をつくりあげる必要があります。ところが成功体験を持つ組織で新しいことをしようとすると、必ず抵抗に遭います。当然、体制づくりの難易度は上がります。そのため、推進体制の構築は、未来に起こり得ることを十分想定して、慎重すぎるくらいに行う必要があります。
デジタル推進体制を作る際は、この「環境下の違いによる人の意識」に注意を払うことが欠かせないのです。
能力だけでリーダーを抜擢してはいけない
まず大切なのは、リーダーの選定です。
プロジェクトを率いるデジタル推進リーダーは、“経営者の右腕”とも言える存在です。経営者が最も信頼できる人を任命し、二人三脚で辛苦を共にしながら推進していくべきです。
これは経営者の方に常々アドバイスしていることですが、会社の変革を実施する場合、周囲から多くの声が聞こえてきます。それらに翻弄されないためにも、推進リーダーには、心から信頼できる人を任命することが大切なのです。けっして能力だけで任命してはいけません。猜疑心を持つことなく、「運命を共にできる」と本心から思える人を任命します。
なお、「運命を共にする」以上、何かあったときには経営者に後ろ盾になってもらうことも大切です。とくにデジタル推進リーダーは、新しいビジネスの枠組みをつくる役割があるため、既存のビジネスに関わっている人たちの抵抗を生みやすい傾向があります。ときには、経営者を後ろ盾にして対処していきましょう。
私自身もDXのリーダーを担っていたとき、様々な抵抗に遭い、苦労を強いられたことがあります。面と向かって意見を言うのではなく、表には出ない老練な手口で足を引っ張ってきたのです。その際、経営者に後ろ盾になってもらったことで、窮地を脱することができました。
経営者の信頼を得て後ろ盾になってもらうためには、経営者への報告・相談を定期的に行い、信頼を積み重ねていくことが何より大事です。