80代男性から「助けてくれ」という電話が…

ケアマネが、2泊3日のショートステイとデイサービスを組み合わせた計画書を作成し、1週間後の同じ時刻に訪問する約束を取りつけた。11時、事務所に戻り、新規の電話相談を受ける。両親を遠方から引き取って間もない娘からだった。

父は「要介護2」でデイケアを利用し、母は「要支援2」で体操教室に通っていたが、こちらでも使えるかと尋ねられる。すぐ使えると答え、明日の午前中、手続きの書類を携えて娘の家を訪問することを約束した。

12時から昼休みで、机の上に弁当を広げて食べ始めるが、再び電話が鳴る。ケアマネは訪問で不在が多いから、サービス事業所の人は昼休みを狙ってかけてくる。私の地声は相当な大きさらしい。電話の声は地響きとなって、事務所全体に響きわたる。

転がった受話器
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職員のひとりが「もう少しトーンを落として」と私に向かって、人差し指を口元に当てたポーズを取る。いったんは「気をつけます」と謝るものの、次の電話のときにはもう忘れている。弁当箱を片付けると、また電話が鳴った。市役所の介護保険課からだった。

「ただちに家庭訪問をしてほしい」という緊急性の高い依頼である。団地に住む、87歳の河野聡さんから「助けてくれ」という電話が市役所にあったという。私が駆けつけると、娘と思われる50代の女性がドアを開けた。

だが、ぼうっと立っているだけで何も答えない。「失礼します」とだけ断って部屋に入ると、痩せ細った河野さんが和室に倒れていた。私は彼を抱きかかえ、起こそうとした。身体は鉄板のように硬く重く動かない。

助けを求めた先は119番でも110番でもなかった

救急車を呼んだ。救急隊員が到着し、河野さんを担架で運び出す作業中、娘はひどく脅えて頭を畳にこすりつけていた。病院までついてきてほしいと救急隊員に頼まれた。

「一緒に病院に行きましょう」私は娘のかたわらに座って声をかけたが、顔を上げてはくれなかった。

病院に同行し、待合室で河野さんの処置が終わるのを待つ。消化管出血だった。河野さんは精神疾患を患う娘と長年2人で暮らし、引きこもっていたという。河野さんには自立した息子もいたが、自分たち2人のことは自力でなんとかしようと決めていたようだ。医者にもかかっていなかった。

苦痛が限界を超えたとき、助けを求めた先は119番でも110番でもなく、市役所だった。私は障害者福祉課に娘の支援をつなぐことにした。事務所に戻ったころには、もう日が傾き始めていた。

17時、本日の全記録をパソコンに入力し始める。ひたすら打ち込む。電話が鳴る。対応する。再び、打ち込む。電話が鳴る。終業時刻の17時30分になってもまったく終わりが見えない。今日も残業だ。