南北戦争は死者数でいえば米国史上最大の戦争だった
南北戦争(1861年から1865年)は、時期的にはちょうど日本の明治維新と重なる。明治維新が日本の歴史の中で大きな転換点であったように、南北戦争もアメリカの転換点であり、国家を2分する危機であった。
南北戦争は奴隷制廃止を迫る合衆国軍である北軍に対して、南軍(アメリカ連合国軍)が蜂起した、国内を二分する血みどろの内戦だった(南北戦争は英語では「The Civil War」。「civil war」とは内戦の意味)である。
南北戦争の傷跡は大きく、死者数でいえばアメリカ最大の戦争である。負傷後の病死などもあり、数については諸説あるが、南北戦争の死者は75万人を超えるといわれている。アメリカがかかわった戦争の米軍兵の死者については、2番目が第二次大戦で約40万人、3番目がベトナム戦争の約6万人とされている。2001年10月から現在まで続くアメリカの最長の戦争であるアフガニスタン戦争での死者数は2300人強である(いずれの戦争も民間人の数を入れればさらに大きくなる)。
敗軍を率いたリー将軍は「賊軍の長」
日本からすれば、人が人を「所有物」とする奴隷制を維持しようとしていた南軍を倒した北軍が「正しい勝者」にみえる。この考えはアメリカ国内でも広く受け入れられているし、国家的危機を乗り越えたという意味で、リンカンは偉大な大統領とみられている。リンカンは戦争に勝っただけでない。公的な奴隷制廃止という歴史的な憲法修正も議会と折衝しながら進めた。
それもあって「歴史家が選ぶ偉大な大統領」というランキングでは、リンカンは1位の常連となっている。順位は変わることはあるが、この手の調査のトップ3に入っているのは、初代大統領のワシントン、大恐慌からの復興、第二次大戦のF・ルーズベルトであり、波乱を乗り越えた政治家が評価されるのはどこでも同じだ。
そのリンカンこそが、国家的な英雄でもあり、敗軍を率いたリー将軍は「賊軍の長」である。