また、箇条書きは、列挙された各要素の関係性を明確に示すことが不得意です。それぞれの要素の大小、重なり、関係性、また全体とどんな関係にあるのかが不明確なため、ものごとを的確に理解し、考え、伝えることが難しいのです。
私が勤務していた日本航空も「文章地獄」の世界でした。私が作成する文書について、上司は「て・に・を・は」の使い方から句読点の打ち方まで、直しを入れようとします。上司は部下の書いた文章に直しを入れることが自分の役割であると思っているからです。
一方、文章の内容についての本質的な議論はありませんが、決裁の権限は上司が持っているので、従わざるを得ませんでした。どの部署に異動しても、同じような上司がいて、その繰り返しでした。こんなに生産性の低いままでいいのかと疑問を抱き続けました。
提案を一発で通す「図解」の威力
文章ではなく、図解を使ってはどうかと思いついたのは、30代半ばに客室乗務員の人員計画から労務までを担当する客室本部業務部へ異動になり、労使交渉で会社側の末席に連なる立場になったときです。
当時、客室乗務員だけでも2つの組合がありました。経営側と対立路線をとるA組合と協調路線のB組合です。2つの組合とそれぞれ交渉して労働条件を決めていくのは苦労が多く、実に忍耐のいる仕事でした。
労使交渉の相手となる各組合の委員長は、会社の経営のこともよく勉強して知っています。団体交渉で会社側の末席に座り、交渉のやり取りを記録するのも私の役割でした。
それぞれの組合の要求を受けて会社として再回答するときは、関係者が集まって議論します。いろいろと意見が噴出してなかなか結論が出ません。みんな沈黙してしまって、天井を見上げて、思案投げ首の体です。
この状態を打開するため、私は図解を用いて回答案を提案してみました。A組合の要求、B組合の要求、会社提示の受け入れ許容範囲の3つの囲みを描いて、重ね合わせるとその一部分が重なります。この重なった部分は無条件で受け入れてよい部分です。それに加え、両労組が共通して要求している部分、さらにプラスアルファとして、A組合の要求の一部分、B組合の要求の一部分を受け入れてはどうかと図を示し、その下に要求を文字で書き入れて提案しました(図表1)。
この図を見た経営側の交渉担当者たちは納得し、私の提案は一発でとおりました。「君、なんでもっと早くこの図を出さなかったのか」と上司にいわれたものです。私はこのとき、図解の威力を知りました。以来、図解を適宜使うことで、仕事がうまく回るようになりました。その成果が著書『コミュニケーションのための図解の技術』として結実し、後に大学教授への転身を導くきっかけになったのです。
図解することは、決して難しいことではありません。簡単にいえば、マルと線と矢印が描ければ、年齢や学歴、教養のあるなしにかかわらず、誰でも図を描き、使うことができます。図解は、もちろん仕事だけでなく、日常生活でのさまざまな問題解決にも活用できます。
まず、白紙を用意し、解決したい問題点を真ん中に書きます。そのまわりに思いつくままに関係する項目を書き込んでいきます。そして「これとこれはどう結びつくか」「AとBではどちらの重要度が高いか」などと、マルで囲んだり、線を引いて結びつけたり、矢印を描いたりしながら考えていきます。
手を動かしながら、紙の上でいろいろとシミュレーションをしていると、ものごとを具体的に考えながら、同時に全体像が見えてきて問題の本質が浮かび上がり、あっさりと解決策が見つかることが多いのです。