感染症対策の基本は先回りして感染拡大を防ぐこと
緊急事態宣言の発令を踏まえた7月9日付の朝日新聞の社説は、まずこう主張する。
「ワクチンの効果で高齢者の感染は確実に減り、病床にはまだ少し余裕がある。とはいえ、入院患者は増えており、接種の進んでいない中高年が重症者の中心に移りつつある。インドでみつかった、より感染力の強い変異株(デルタ株)への置き換わりも進む。医療体制の逼迫を招く前に、感染の拡大抑止に全力を挙げるべき局面である」
感染症対策の基本は病原体に対し、先手を打って先回りして感染拡大を防ぐところにある。ウイルスなどの病原体は目に見えないし、変異などその動きは予想しにくい。それが新型コロナウイルスという人類が初めて相手にする病原体であれば、なおさらのことである。病床が不足する前に新型コロナを叩いておくことが肝要だ。
朝日社説は指摘する。
「政府は宣言の期間を来月22日までと、当初の設定では過去最長となる42日間に定めた。今月後半の4連休や夏休み、お盆といった人の移動が活発になる時期をカバーするためだ。しかし、東京五輪という、多くの国民が懸念する一大イベントの開催を強行する政府が、飲食店の営業制限や個人の行動抑制を呼びかけたところで、説得力に欠けるのは明らかだ」
大勢の人々が集まる東京五輪の開催と3密(密閉、密集、密接)を避ける感染対策、この2つが大きく矛盾することは明白である。菅政権はそれが分かっていながら五輪を中止しない。いや分かっていても中止しないのだ。異常な政治行動である。
「中止の政治決断」を下す準備を進めるべき
朝日社説は最後に「首相はきのうの記者会見で、ワクチン接種の進展で『新型コロナとの闘いにも区切りがみえてきた』と語り、緊急事態の前倒し解除の可能性にも言及したが、楽観的にすぎないか。宣言下でも感染を抑え込めなかった場合はどうするのか、最悪の事態も想定して対策を用意するのが政治指導者の責務だ」とも指摘するが、これもうなずける。
翌7月10日付の朝日社説は「無観客五輪 専門知、軽視の果てに」との見出しを掲げてこう指摘する。
「(無観客での実施は)感染拡大の懸念に応えた措置のように見える。だが宣言の発出は、政府が『国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態』が起きたと認定したことを意味する。そんな危機の中でなお、巨大イベントを強行しようとしていることに変わりない。健康より五輪を優先する理由などどこにもない」
緊急事態宣言が発令されている中での五輪開催は、人々に間違ったメッセージを伝えることになる。菅首相は「開催の有無は私が判断することではない」と逃げるのではなく、一国の首相として「中止の政治決断」を下す準備を進めるべきだ。