「出るのも地獄、留まるのも地獄」

冒頭で筆者の取材に答えた女性は、英国に移住した理由を「中国の国安法導入などの動きに私は絶対に同意できなかった」と説明したが、一方で「香港へ戻れる希望が絶たれるのはとても悲しい」と、苦渋の選択だったことをにじませる。

しかし、こうした英国への市民流出を中国当局が指をくわえて見ているわけではない。すでに中国政府はBNOパスポートについて「国際的な渡航に無効である」と宣言しているほか、香港から英国に逃れようとする人々の動きを監視しているようだ。先には、「リンゴ」の主筆だった馮偉光氏が英国行きの航空機に搭乗する直前、国安法違反容疑で逮捕されている。

香港市民にとって最も身近で、言葉も通じやすい目的地は台湾だが、香港にある台湾の大使館的機能を持つオフィスは、中国当局によって取り潰される寸前にある。今や「香港を出るのも地獄、留まるのも地獄」といった様相だ。

中国の暴走をこれ以上許してはならない

中国の習近平国家主席は、100周年記念式典での1時間にわたる演説で、世界一の強国実現への目標を掲げただけでなく、「祖国統一」「外国勢力による内政干渉の拒否」を改めて明確にした。

もはや、中国にとって香港の混乱はほぼ片付けられており、次のターゲットは台湾とする動きが見え隠れする。そうしたステップを考えると、「リンゴ」の廃刊は香港から自由が剥奪された象徴どころか、中国が「次の手」に向かう大きなシグナルなのかもしれない。

北京にはためく五星紅旗
写真=iStock.com/4h4Photography
※写真はイメージです

中国政府の「リンゴ潰し」は成功した。しかし、欧米諸国からの非難の声はやまない。米ホワイトハウスは「香港と世界のメディアの自由にとって悲しい日となった。北京当局による弾圧の激化は、廃刊に迫られるレベルに達した」と声明を出している。

欧米をはじめとする各国はこれまで、中国との経済上の結びつきを優先するばかりに、人権問題への言及を避ける傾向が強かった。そうしたことが中国の「暴走」を許す結果となったわけだが、さすがに欧米も今回の香港の現状を見逃すわけにはいかないだろう。

「リンゴ潰し」は、中国にとって都合の悪い「真実報道メディア」を消し去るための方策だった。そうしたことを考えると、日本や欧米諸国は中国からのプロパガンダ的報道をやめさせた上で、同国で起こっているさまざまな事象の真実を追及するために圧力をかけ続けることが必要だろう。「情報操作こそが国是」とする中国の暴走をこれ以上許してはならない。

【関連記事】
会議で重箱の隅つつく「めんどくさい人」を一発で黙らせる天才的な質問
「お金が貯まらない人の玄関先でよく見かける」1億円貯まる人は絶対に置かない"あるもの"
「仕事やお金を失ってもやめられない」性欲の強さと関係なく発症する"セックス依存症"の怖さ
「終刊号は100万部に」香港"リンゴ日報"を廃刊に追い込んだ習近平政権の誤算
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」