料理は小盛り、少量が理にかなっている

だからこそ、私は、ブランド各社には旗艦店ではなく「コンセプトストア」という発想を持ってもらいたいと常々思っている。コンセプトとは、繰り返しの取り組みや創意工夫、継続的な開発を示唆する言葉だ。コンセプトストアは、本格展開も視野に入れた価値あるイノベーションを生み出す傾向があり、当然、全店舗へと展開できる可能性も高い。

また、コンセプト自体は、マーケティング部門と営業部門の双方が共同で所有・運営することも可能だ。旗艦店なら「これが私たちに精一杯できること」と言いそうなところが、コンセプトストアなら「私たちはイノベーションへの取り組みをやめない」となる。

旗艦店は、大がかりな体験ほどいいと考える。だが、実生活でよくあるように、ちょっとした体験に大きな満足感を覚えることは少なくない。オートキュイジーヌ(高級フランス料理)がいい例だ。腕利きシェフが創り出す素晴らしい料理は、量的にはほんのちょっとだけだ。「料理の盛りが小さいのは、食材を減らして儲けを増やすため」と冷ややかな見方をする人もいるが、実は小盛りのほうが生理学的に理にかなっているのだ。

客のオーダーを書きとめるウェイター
写真=iStock.com/LightFieldStudios
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まず、量が少ないほうが見た目が美しくなる。小盛りは食器の上で見栄えがよく、芸術的な盛り付けができるため、見た目で食欲がそそられる。だが、もっと重要なポイントは、科学的に、いかなる食べ物も最初の3~4口は舌の味蕾みらいの反応が飛び抜けていいと言われる。その後は、あまり代わり映えがしなくなる。また、少ない量に抑えれば、1回の食事で多くの種類の料理を味わうことができる。

こんなふうに、大がかりな体験だからといって、必ずいい体験になるわけではないのである。確かに、私自身、ショッピングの場で、とことん洗練されていて、おもしろく、記憶に残るような体験を思い出してみると、極めて小さな小売りスペースが舞台になったものもいくつかある。

ポイントカードを作っても無意味

顧客のロイヤリティ(愛着心・信頼)獲得を重視してポイントカードなどを導入している業界には、あまり外部に知られたくない不名誉な秘密がある。実はポイントプログラムは、得意客を増やす効果がないのだ。

各種調査によれば、小売業界のポイントカード会員と非会員の行動に関して、店に対するロイヤリティの差はごくわずかだという。実際、ポイントカード制度の多くが促進するのは、ブランドに対するロイヤリティでも何でもなく、専門家の間で指摘される「特典に対するロイヤリティ」に過ぎない。要は、買い物客が割引目当て、特典ほしさで反応しているというわけだ。

だが、私が考えるポイントカード制度の問題点は、ブランドと顧客の間でごく限られた一方通行のやり取りになってしまっているという点だ。やり取りといっても、特典、ポイント、購入くらいしかないのだ。