「わたしたちの居場所をつくってくれて、ありがとう」
親子仲はあまりよろしくなかったらしい。家族には筆を走らせられなかったのかもしれない。
便箋を前に、ふと中沢さんの顔が浮かんだのだろう。彼女にとってニュクス薬局は文字どおりかけがえのない存在になっていたに違いない。
「自分が想像していた以上に、そうだったみたいですね」
と中沢さんは言った。やりとりした手紙のなかには、こんな一文があったという。
「わたしたちの居場所をつくってくれて、ありがとう」
やがて彼女は、出所した。そしてあいさつに来た。もう歌舞伎町は卒業したという。二度と会うことはないのだろうか、それともまた中沢さんを必要として戻ってくるのだろうか?
わからない。それはわからないけれど、いずれにしても中沢さんは、ニュクス薬局のカウンターの中、いつもの場所で、今日も「待っている」。