もちろん、エルサルバドルはG20加盟国ではないので、この種の合意を無視すること自体は問題ない。ただ、国際社会で認められる方向にない代物を法定通貨にして何か良いことがあるのか。
6月10日、ライスIMF報道官は「ビットコインの法定通貨採用は、マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を提起し、非常に慎重な分析を必要とする」と指摘し、早速けん制の構えである。
現在、エルサルバドルはIMFから10億ドル以上の融資獲得を希望しているようだが、ビットコインの法定通貨化が融資交渉に良い影響を与えることは恐らくないだろう。必要な金融支援を蹴ってまでビットコインを使いたいのだろうか。そこまでの勝算があるならば、それも1つの考え方ではある。
ルールを逸脱する通貨は存在しえない
エルサルバドルの動きは歴史的に見て目を引くものであり、今後、追随する国がどれほど出てくるのかという意味では確かに面白いトピックである。
例えば中米共同市場の開発銀行である中米経済統合銀行(CABEIの加盟国はエルサルバドル以外にコスタリカ・グアテマラ・ホンジュラス・ニカラグアが存在する。これらの国々の挙動は注目だろう。ブラジルやメキシコのような国でも支持する政治家は存在するという。
だが、以上で見てきたように、現時点では今回の動きが持続可能性を持ち、通貨の歴史に無視できない影響を与えると考えるだけの証拠には乏しいというのが客観的な評価に思う。
暗号資産に未来を見いだす人々を全否定したいわけではない。しかし、既存の金融資産やそれを取り巻くプレーヤーやルールには相応の歴史と理由があって存在している。それを承知した上で、議論する姿勢が大事だと考える。通貨の未来を語ることも魅力的だが、現行体制の在り方を確実に学ぶことも推奨したい。