ビットコインとドルの交換レートは市場で決まるらしいが、民間企業のCEOの発言1つで価値が倍増したり半減したりするのがビットコインだ。同国で流通するビットコインの数倍のドルが常時潤沢に保有されて初めて成り立つ体制に思えるが、それが可能なのか。

他力本願の通貨体制を克服できない

もっと言えば、ドルの保有量もさることながら、ビットコインの保有量も不透明さを抱える。ビットコインの供給量(採掘量)は高性能の計算装置次第と言われている。だとすると、ビットコインを法定通貨にすることで「米国の財政・金融政策から自由になれる」といった趣旨の指摘も議論の余地がある。

「自由」というフレーズは暗号資産支持者が好んで使うものだが、ビットコインがエルサルバドル政府のものではなく、供給できる量も限定されている以上、適時適切な流動性供給をできる保証はない。ということは、ビットコインを法定通貨にしてもエルサルバドルの通貨体制が他力本願である状況に変わりはない。

自国で無制限に供給できる通貨を持たない以上、当該国の金融システムは脆弱ぜいじゃく性を孕む。法定通貨を司る中央銀行が「最後の貸し手」と呼ばれるゆえんだ。

フェイスブック社“リブラ”の顚末をお忘れか

最後に③の論点「国際社会の協力体制」で終わりたい。

現状、国際経済外交の舞台で暗号資産に対する目線は厳しい。ディエム(当時はリブラ)が2019年6月に発表されてわずか4カ月後の同年10月のG20財務相・中央銀行総裁会議で「深刻なリスク」があるとの合意が取りまとめられ、懸念が払拭されるまでは各国が発行を認めない方針で意見集約されてしまった。

スマートフォンのディスプレイにのっているリブラサイン付きのチップ
写真=iStock.com/megaflopp
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「懸念が払拭されるまで」とは厳格な規制などを整備し、後顧の憂いがなくなるまでは認めないということである。現に2020年前半と計画されたディエムはまだ発行に至っていない。当初、計画への参加を表明していた大手企業も当局からにらまれることを懸念し続々と舞台から降りた。フェイスブック社ですらそうだったのだ。

また、エルサルバドルがビットコインの法定通貨化を発表した翌日となる6月10日、金融機関の国際ルールを協議するバーゼル銀行監督委員会は銀行による暗号資産保有を規制する案を公表している。詳述は避けるが、同案で暗号資産に設定された1250%というリスクウエイトは保有した瞬間に全損が想定されているようなものである。

ルールの抜け道は決して許されない

暗号資産を支持する向きは「既存体制への脅威になる」というどこかヒロイズムを抱きたがる印象がある。しかし、脅威だから認められないし、容認しない方向で意見集約されているのである。

米財務省やバーゼル銀行監督委員会の動きを持ち出すまでもなく、少なくとも既存の法定通貨や金融機関が活動している土俵には数多くのルールが存在し、全ては相応の歴史と理由がある。抜け道を作って良いところ取りができるような可能性は残さないし、それが規制当局の仕事である。