日本の「対外純資産」が、30年連続で世界一になった。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「2位のドイツが猛追しており、来年にも首位を奪われる恐れがある。安全資産と呼ばれる日本円の魅力が失われれば、極端な円安を招く恐れがある」という――。
日本円が「安全資産」と呼ばれる理由
「リスク回避ムードが高まり、安全資産である円が買われた」
このフレーズは市場参加者でなくとも、これまで何度も目にしたことがあるものだろう。筆者においても「なぜ円が安全資産なのか。理解できない」という照会をこれまで数えきれないほど受けた。恐らく、今の仕事をしていて最も多く受けた照会かもしれない。
さまざまな解説が可能だが、円が安全資産と整理される最大の理由は「世界最大の対外純資産国」というステータスに尽きる。端的に言えば、日本は「世界で最も外貨建て資産を多く抱えている国」という話でもある。
もちろん、厳密には実際に売買可能な資産かどうかなど議論を要する部分もあるが、それだけの外貨建て資産を抱えているのは事実である。
世界にはたくさんの通貨が存在する。そうした中でわざわざ「世界で最も外貨建て資産を多く抱えている国」の通貨を売り進める必要はなく、むしろ相対的に安全な資産として取引されること自体、論理的には不自然ではない。
なお、後述するが、「巨大な対外純資産」はそれだけ国内経済における投資機会が乏しかった(魅力がなかった)ことの結果でもあるため、必ずしも喜ばしい話ではない。
とはいえ、政治・経済の弱体化が指摘される現状でも円が安全資産と呼んでもらえる最大の理由もそこにあるという理解は持っておきたい。