30年連続「世界最大の対外純資産国」という裏付け
「世界最大の対外純資産国」というステータスは毎年5月下旬に財務省から公表される『本邦対外資産負債残高の状況』を受けて定期的に話題になる。今年5月25日には2020年末分が公表され、30年連続で「世界最大の対外純資産国」というステータスが確認された。
具体的に数字を見ると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を引いた対外純資産残高は前年比▲450億円の356兆9700億円と3年ぶりに前年比減少となったものの、「世界最大の対外純資産国」のステータスは不変だった(図表1)。
この前年比減少も2020年を通じてドル/円相場が5%程度下落したことの結果であり、これを差し引けば、「概ね横ばい」というのが正しい。
というのも、2019年末の対外純資産は357兆円であり、この5%は17兆9000億円である。これは2020年末の対外純資産に本来乗ってくるはずだった2020年の経常黒字(+17兆5000億円)と同額である。
要するに、為替変動による価格効果で対外純資産の水準が微減(概ね横ばい)になったのであり、国として対外純資産を積み上げる続ける姿が変わったわけではない。
この点は重要である。というのも、暦年で見た経常収支が赤字となり、対外純資産の積み上げができなくなってしまった場合、「円の信認」が毀損する象徴的な出来事として注目を集める可能性があるからだ。
もっとも、暦年で見た経常収支が赤字に転落し、それが嫌気され円安になるようなことがあっても、350兆円を超える外貨建て資産が為替評価益を生むので対外純資産は逆に増える可能性もある。
ここまで膨らんだ外貨建て資産は通貨防衛を企図した大型の外貨売り為替介入などに追い込まれない限り、顕著に減ることはないようにも思える(もちろん、提示可能な悲観シナリオはまだあるが、枚挙に暇がないので割愛する)。
「リスクオフの円買い」をそぐ直接投資
ちなみに、残高だけを見れば日本が「世界最大の対外純資産国」である事実は不変だが、その構造は近年変化している。筆者はその構造変化が「安全資産としての円買い」の迫力を近年そいでいるのではないかという仮説を持っている。