先に(2)を触れておきたい。ビットコインに限らず、「安価な国際送金手段になる」という利点は暗号資産が既存の法定通貨に対して持つ強みとして必ず持ち出されるものだからだ。

フェイスブック社のリブラ(現在の名称はデュエム、以下同)が取りざたされた際にも、銀行口座を持たない人々に対する社会貢献(金融包摂)だと言われていた。だが、国際送金に関して既存の法定通貨(ひいては金融システム全体)が負っている厳格な規制は相応の理由(例:不正取引に係る資金洗浄防止など)があって存在しているものだ。

地球儀と各国紙幣
写真=iStock.com/Jenhung Huang
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ルールを守れば「期待外れ」で終わる

それが「暗号資産ならば免除される」という道理はなく、実際に監視を強める機運は高まるばかりである。例えば今年5月、米財務省は1万ドル以上の暗号資産の送金を内国歳入庁に報告することを義務付ける方針を発表し、ビットコイン価格は急落した。暗号資産が不正取引を助長しているとの懸念に基づいたものだ。

同種の動きは枚挙に暇がなく、G20においてこの方向性が変わる様子はない。今後は伝統的な金融機関以外も暗号資産を取り扱うケースが増えるだろうが、守るべきルールが大きく変わることはないはずである。

ルールを守る過程で新たなプレーヤーであっても暗号資産の利用者は規制対応コストが膨らみ、最終的な姿は「新時代の低コスト通貨」という当初の期待とは離れたものになってくるだろう。それは特別なことではない。既存の金融機関は近年の規制対応コストに関して大なり小なり悩みを抱えている。

価格の乱高下を政府は制御できない

だが、(2)以上に理解が難しいのが(1)だ。確かに米国の財政・金融政策は未曾有の規模に達しているが、金利も物価も基本的に制御されている。

もちろん、主権国家のエルサルバドル政府やそれを支持する人々が「ドル(もしくは米金利)のボラティリティが高くなるのが不安なのでビットコインを法定通貨にすることにした」という相場観を抱くのは自由だが、現実問題としてビットコインよりもボラティリティが高い金融資産を筆者は知らない。

ただ、どうしても「米ドルよりもビットコインの方が将来有望」と信じたいのであれば、それは一つの相場観として不可侵なので健闘を祈りたいと思う。

しかし、そのような相場観を抱くにしても、エルサルバドル政府にビットコインのボラティリティを受け止める能力があるのかは良く考えた方が良い。

発表によれば、国営のエルサルバドル開発銀行に設けた信託を通じて取引時のドルの兌換だかん性を保証するとされている。では、何らかの理由でビットコインが変動し、国民がドル兌換に大挙した場合、本当に必要なドルを差し出すことができるのか。