中国と日本はお互いを猜疑心の色眼鏡でしか見られない

【岡本】こういうものは俯瞰的な視点、歴史的な視点を持っていないと、生真面目な人ほどうっかりはまり込みやすい気がしますね。「アポロは月に行っていない」といった荒唐無稽な話でも、信じてしまう人は少なくありません。

【安田】現在、中国が陰謀論の対象になりやすいのは「弱さ」と「強さ」を両方満たしているからだと思います。日本では中国への蔑視感情が色濃く残っていますが、いっぽう現実の中国は強い国で、国際的な存在感も日本より高い。「あと●年で中国崩壊」と「中国はコロナ兵器と5Gで世界を侵略する」という話を同時に信じる人がいるのはそういう理由です。

岡本隆司『中国「反日」の源流』(ちくま学芸文庫)
岡本隆司『中国「反日」の源流』(ちくま学芸文庫)

【岡本】「中国崩壊」については、わたしも同様のテーマで文章を書いたことはありますが、滑稽でした。しかし、そのときの編集者いわく「崩壊」って書かないと売れないというのですね。これを聞いた時は、むしろ日本のほうこそ大丈夫なのだろうかと思えてしまいました。

以前(2011年)の拙著『中国「反日」の源流』(ちくま学芸文庫)でも書きましたが、中国と日本は社会のつくりが違うので、お互いを猜疑心の色眼鏡でしか見られないという構造的な問題があるのです。これは非常に根深いものですから、個人の力で容易に変えられるものではない。ただ、せめて問題の所在はこれで、お互いを冷静に見る視点はこうだ、と示すお手伝いはおこないたい。それが中国を対象にした地域研究にたずさわる者の役目ではないでしょうか。

アメリカから見る中国は「無理解」である

【安田】扇情的なトンデモ中国論は、日本ではもう20年近くおなじみです。ただ最近はアメリカで広がるものも多いですね。コロナ生物兵器論にしても、亡命反体制富豪の郭文貴のグループや、反共的な疑似宗教団体の法輪功(『現代中国の秘密結社』参照)が傘下メディアを通じて主張したデマが、アメリカや日本でまことしやかに受容された形です。

【岡本】アメリカはもともと外部に敵を設定しがちな国で、いまはその対象が中国になっていますから、中国関連のデマも受容されやすくなりますね。日本から見る中国以上に、アメリカから見る中国は「無理解」である。「無理解」は陰謀論の苗床でもあります。