ガソリンスタンドがなくなれば、合成燃料も配れなくなる

また20年後に合成燃料のサプライチェーンを確保できるかどうかも心配だ。2000年3月末に5万5153カ所あったガソリンスタンドは20年3月末には2万9637カ所と減り、20年間でほぼ半分になった。HV(ハイブリッド車)など燃費のいいクルマが増え、ガソリンの消費量が減っているためだ。10年、20年後に合成燃料の実用化にめどがついたとしても供給できるスタンドが全国にどのくらい残っているだろうか。

e-fuelについては4月23日にホンダの三部敏弘社長も次のように発言している。

「(現在の化石燃料の)代替手法のないモビリティ、例えば飛行機などはe-fuelに置き換わるのが妥当だろうが、電気という代替手法のある自動車ではマジョリティとしては難しいのではないか。ただ特殊車両や楽しみとして運転をするような車でe-fuelは使われるかもしれないが」

私には豊田社長よりも三部社長の見通しのほうが現実的に思える。

トヨタ・ミライのエンジン(2015年11月21日、ポーランド・ワルシャワにて)
写真=iStock.com/Tramino
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2030年代後半まではHVやPHVを駆使することが重要だが…

昨年来の豊田社長のCNに関する発言は傾聴に値する点も多い。現時点でのEV化一辺倒の議論は危うい。日本や中国など火力発電の比率が高い電源構成の国では、クルマの走行時、製造段階、発電段階をすべて合わせたLCA(ライフサイクルアセスメント)でみると、EVのCO2排出量はHVを上回ってしまう。EV化一辺倒では、脱炭素を目指しているのに足元ではCO2排出量が増えてしまうという事態になりかねない。

安井孝之『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)
安井孝之『2035年「ガソリン車」消滅』(青春出版社)

CNを実現する2050年までの道程で、2030年代後半までは「現実解」といえるHVやPHV(プラグインハイブリッド車)などを駆使しながら低炭素への努力を続けることが大切である。

だが時間軸を先に延ばすと、違う光景が見えてくる。再エネ発電が増えていけば製造段階や発電段階のCO2排出量は減っていき、どこかでLCAでもEVが勝る分岐点がやってくるからだ。つまり時間軸をそろえて議論をしないと建設的な議論にはならない。このことも拙著『2035年「ガソリン車」消滅』で指摘した。

現状のe-fuelも、製造には多額のコストと大量のエネルギーが必要で、とても低炭素といえるエネルギーではない。いつe-fuelが製造段階でもCNを達成できるかが重要なのだが、もし10年以上も先だとすれば、その時点ではLCAでみてもHVよりEVが勝っている可能性が高い。