「水素エンジン」が実現すれば、内燃機関でもOKか?
トヨタの最近の動きで気になるのが「水素エンジン」への取り組みである。5月21~23日に富士スピードウェイで開かれた24時間耐久レースでは、水素を燃料とする水素エンジンを搭載したカローラスポーツが完走した。豊田社長もドライバー「モリゾウ」としてハンドルを握った。そこでも豊田社長は「CNへの選択肢をたくさん持っておくことが大切だ」と強調した。
水素は従来のエンジンを改良すればe-fuelと同様に使うことができ、走行時のCO2排出量もゼロとなる。内燃機関を存続しながらCNを実現する選択肢にはなりうるものである。多くのメディアやモータージャーナリストはこぞって水素エンジンへの期待感を表明した。
だが自動車業界の技術者の中からは「水素を内燃機関で燃やすのはエネルギーのロスが多い。そんな無駄遣いをして本当にいいのか」という冷ややかな声が聞こえてくる。
クルマで水素を使うなら、エンジンより燃料電池のほうがいい
CNに向けて水素は貴重な存在だ。e-fuelの原料にもなり、再エネ発電で余った電気で水を分解して、水素として「蓄電」することもできる。クルマならFCV(燃料電池車)の燃料にもなる。CNの世界で水素はなくてはならない存在である。
ガソリンエンジンなどの内燃機関のエネルギー効率は残念ながら高くはない。街中で加減速を繰り返し走行する場合のエネルギー効率はせいぜい30%前後だ。70%以上は熱エネルギーなどとして放出される。水素を燃やしてもほぼ同じでエネルギー効率は高くない。それに対してFCVのエネルギー効率は同じ街中を走る場合、60%を超える水準となる。
もしもクルマで水素を使うならエネルギー効率が内燃機関の2倍ほど高いFCVで使うべきなのである。内燃機関を存続するために水素を使うというのはトータルのエネルギー効率を悪くしかねない。しかも空気を取り込んで燃やすのでNOx(窒素酸化物)の発生が避けられない。