「中国は“家族で結束する”という伝統的な東洋の観念を持ち、これを原動力に急速に大国化してきました。中国のGDPは2028年に米国を超えると言われていますが、この急成長を可能にしたのが家族であり、企業であり、国家の団結でした。まさに米国はこの要因に強い危惧を抱いており、米中対立はここから始まっているのです」
一方で、この「家族」の観念に異変が起き、国家の礎となってきたその基層部分を成す家族が揺らいでいるのはこれまで述べたとおりだ。それは、世間でしきりに騒がれている人口問題や都市間格差問題をも内包する。加々美氏はこう続ける。
人とのつながりも消えた中国の行く末
「中国の最近のテレビドラマは、直接的に家族崩壊を扱ってはいないものの、その根底には衰弱した家族観が見て取れます。もともと中国は“家族”をベースに、“人と人のつながりで支え合う人倫共同体”がありました。
しかし、これが90年代半ばから衰退を始め、国はついにその衰退を食い止めることができませんでした。孤独な群衆が生まれるとき、民主化を成功させることができなかった中国は、果たしてどのような道をたどるのでしょうか」
日本でも高度経済成長時代に大都市への人口集中や核家族化が進行し、従来の「親族」「家族」という概念や互助精神が希薄になっていった。中国でも90年代以降、親が子を育て、子が親の面倒を見るという「家族の基本的な形」が瓦解している。
もっとも、かろうじて残っているのは“人と人との情”だ。中国のコロナ禍では、実家が“避難場所”となり、仕事や家を失った息子や娘を積極的に受け入れた。昨今の中国人留学生は留学の本当の動機を「口うるさい親の干渉から逃れるため」だと明かすが、その割には家族との連絡を頻繁に保っている。
筆者が危惧するのは、この人情さえも失われてしまったときだ。そのときこそ、中国は本当の意味で内部崩壊を起こすのではないだろうか。(了)