1979年生まれの魏さんは、2013年に34歳で結婚した。魏さんは専門学校卒業、妻は上海の有名大学を卒業したキャリアウーマンだ。夫婦共稼ぎで、母親の劉さんにとって老後はもはや安泰であるかのように見えた。

その劉さんは意外にも「嫁がうちに顔を出すことはほとんどなく、嫁とはあまり話をしたことがない」とこぼした。息子の魏さんは今年で結婚9年目、年齢は42歳になるが、妻との間に子どもはまだない。劉さんは「息子は子どもを欲しいと思っていないのよ」と嘆く。劉さんはそんな息子に対して強い不満を抱いており、二言目には「気死我了(腹立たしい)」と繰り返していた。

「自分が死ぬとき、誰が面倒を見てくれるのだろう」

中国の老人には「孫の面倒を見る」という社会的役割があるが、孫のいない劉さんにとっては肩身の狭い思いもあった。そして、それ以上に彼女にとって切実だったのは「自分の老後」だった。

実はここ数年、劉さんの夫は大病を患い寝たきりの生活だった。働き盛りの一人息子(魏さん)は仕事の忙しさを理由に、実家には週末に顔を見せるぐらいだった。上海では高齢者施設もあるにはあるが、寝たきりの夫は入所を嫌がったため、劉さんは自宅で夫を何年も1人で介護した。中国では今なお、本人も家族も「施設に任せる介護」を嫌がる傾向が強い。

夫は長い闘病生活の末に帰らぬ人となってしまったのだが、寝ずの介護をしながら、劉さんが筆者に打ち明けたのは「自分が死ぬ直前は、誰が面倒を見てくれるのだろうか」という不安だった。

高齢女性の手元
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親の介護を拒否する若者たち

中国発展基金会の発表(中国発展報告2020:中国人口老齢化的発展趨勢和政策)によれば、中国の65歳以上の高齢者は2022年には1億8000万人になり、総人口の14%にまで増えるという。2050年には3億8000万人で総人口の27.9%にまで増える推計だ。この中国で一体誰が、老人たちの面倒をみるというのだろうか(ちなみに日本の65歳以上の高齢者は2020年時点で3617万人、総人口の28.7%)。

中国には「孔子の論語思想で結びつく中国の“家”という単位こそが、中国の莫大な福祉財政の必要性を回避してきた」と分析する学者もいる。しかし、中国の40代は、親の介護ができる最後の世代だと言われている。80年代、90年代、2000年代生まれは親の介護などしないという声もある。