ブランドメッセージが10年変わらなかった理由

【田中】ブランド戦略についてうかがいます。コトラーは、「ブランディングの三拍子は、強く、好ましく、ユニーク」と指摘しています。「強く」はインパクト。ただ、インパクトがありすぎると「好ましく」なくて共感されにくい。その2つを両立するものを他から借りてくると、今度は「ユニーク」ではなくなります。

住友生命が10年前に掲げたブランドメッセージ「あなたの未来を強くする」は、これら3つを実現しており、特に特徴的なのは「強くする」です。保険会社としては使うのに勇気のいる言葉だったのではないですか?

【高田】おっしゃる通りです。住友生命は生真面目な会社で、お客さま本位を地道にやる一方、同業との競争で一歩抜き出て差別化する、というところは強くありませんでした。ですから、このタグラインを選ぶにあたって、「生命保険会社が『強くする』と打ち出すのはどうなのか」「寄り添うと言った方が良いのでは」という反対論も当然ありました。しかし、当時の社長の佐藤(現・取締役)がこれでいく、と選んで決まったという経緯があります。

住友生命の高田幸徳社長(左)、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)
住友生命の高田幸徳社長(左)、立教大学ビジネススクールの田中道昭教授(右)

ミッションの重要性をトップが説き続ける

【田中】日本の生命保険会社はブランドミッションに相当するものを数年に一回変えていきます。一方、住友生命は10年間同じメッセージを掲げ続けてきました。だからこそ社員のみなさん一人ひとりの目標になると同時に、対外的に強固なブランドプロミスになっています。10年間続いた秘訣は何ですか。

【高田】会社の中の人間たちの火を灯し続けるために、インナーブランディングには力を入れてきました。田中先生にもレクチャーをいただきましたが、ご著書の『ミッションの経営学』にも強く共感しました。ミッションの重要性をトップが説き続けること、そして新しいチャレンジに挑み、先進の価値を出していくこと。ご著書にある通り、それを実践していたら、結果として10年たっていたという印象です。

【田中】ミッションはまず策定することが重要です。ただ、もちろん作っただけでは達成されません。ミッションに書かれている内容が、社員の行動に投影されたり、顧客に提供している商品やサービスの中に練り込まれていることが重要です。住友生命の場合、ブランドミッションがリーダーを含めて働く方一人ひとりの目標になっていたからこそ、10年続いているのでしょう。

【高田】住友グループには、「自利利他 公私一如」という教えがあります。自分を利するだけではなく、他人さまやお客さまも同じように考える、今で言う「CSV(Creating Shared Value)」の考え方が当時からありました。私たちの中には入社以来織り込まれています。そうしたベースがあるので、あのブランドメッセージも一人ひとりに浸透したのではないでしょうか。(後編に続く

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