「教える、育てる」ではなくて「共に育つ」

【田中】戦後10代目の社長ということですが、次世代にはどのような価値を残していくおつもりでしょうか。

【高田】なんといっても人材です。これからの時代は、経営陣やマネージャーの変革力や、多様性を許容する企業としての在り方が問われます。そして、イノベーションを興すのも人。その意味で人材育成は欠かせない仕事です。

直近では、「人財共育本部」という組織を社長直轄で立ち上げます。教育といっても、「教える、育てる」ではなくて「共に育つ」の「共育」がコンセプトです。2、3年で完結する仕事ではないので、社長在任中はずっと取り組まなくてはいけないテーマだと考えています。

住友生命の高田幸徳社長
住友生命の高田幸徳社長

【田中】私が高田社長に初めてお会いしたのは、営業企画部長をされているころでした。営業企画部長になられたのが2011年3月。東日本大震災から10年たったという点でも今年は大きな節目です。

【高田】住友生命は現在、「あなたの未来を強くする」というブランドメッセージを掲げています。実はそのブランド戦略をスタートさせたのが10年前の2011年4月でした。震災が起きたのはその直前。危機からのスタートでしたが、今まさにコロナ禍でわれわれは危機と共にあり、そういう意味でも原点を感じています。

生命保険は目に見えない商品

【田中】危機といえば、コロナ禍を受けて昨年9月に中期経営計画を改定されました。当然、改定に関与されていたかと思いますが、狙いはどのようなところにあったのでしょうか。

【高田】デジタルシフトがさまざまな業界で起きていますが、われわれの保険業界では、扱っている商品は非常に足の長い商品であり、それほど進んでいませんでした。また、お客さまからも対面の方が安心できるというご意見もいただいており、対面によるサービスの提供を主にしていました。

しかし、春先からコロナが世界中を震撼させて、お客さまとの接点を簡単に持てなくなりました。そうすると、デジタルシフトせざるを得ません。そこで、デジタルでサービスの提供や、加入から支払いまでができる体制を突貫工事で整えました。ただ、それだけでは足らないので、デジタルシフトの進め方を見直した計画を9月に出しました。

【田中】12月の社長就任発表の記者会見でも、「デジタルと人」とおっしゃっていました。

立教大学ビジネススクールの田中道昭教授
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授

【高田】生命保険は目に見えない商品ですが、デジタルだけで安心を感じられる方はまだそう多くありません。やはり最後は対面だからこその安心感です。そのことはさまざまな調査でも判明しています。ですから、まずはわれわれの原点である「人」、その上で「デジタル」を活用して、「人とデジタル」でやっていくことを私の方針として発表させていただきました。