一流のビジネスパーソンの靴は、どれもピカピカに磨かれている。靴磨き職人の濱岡洋さんは「京セラの山口悟郎会長は『靴を磨かない人がそんなにいるとは思わなかった』とおっしゃっていた。それが一流の感覚なのだろう」という――。

コロナで閉店、「仕事をください」を言って回った

私は、靴磨きの世界チャンピオンである長谷川裕也さんと出会い、「靴磨き」の世界に飛び込みました。2018年から品川駅で、念願だった靴磨きスタンド「BRIFT STAND」(ブリフトスタンド)を開くことができました。当時は仮設店舗でしたが、2019年9月には東京駅の地下に常設店をオープンさせることができました。

ところが、新型コロナで状況が一変しました。

東京駅にオープンさせた靴磨きスタンド。1度目の緊急事態宣言の影響で店を閉めざるを得なくなった。
写真=筆者提供
東京駅にオープンさせた靴磨きスタンド。1度目の緊急事態宣言の影響で店を閉めざるを得なくなった。

やっとスタートできたと思った矢先、新型コロナによる緊急事態宣言が発出され、駅から人の姿が消えました。東京駅の店は、開設からわずか約半年で売り上げを失い、撤退に追い込まれてしまいました。

濱岡洋さん
濱岡洋さん(写真=筆者提供)

出勤すべき店が無くなり、自宅で自分や妻の靴を磨きながら、私は「これからどうしたらいいのか」と悩みました。

状況は絶望的でしたが、不思議と内面から沸き起ってくる想いがありました。私は「『待ち』がだめなら『攻め』しかない。こちらから出張訪問して、靴磨きの仕事を開拓していこう」と決意。当時は格好つけている場合ではなくて、本当にプライドをかなぐり捨てて「仕事ください」と言って回っていました。

あらゆる伝手をたどって靴磨きの紹介をお願いし、「磨いてほしい」という要望があれば、企業でも個人でも、1足だけでも出向いて靴を磨きました。