「なぜ?」「どうして?」はいらない
もうひとつ重要なポイントは、聞き手は相手の言葉をそのまま受け止めてあげることです。
私が主催するワークショップでも相手が言ったことに対して「なぜ?」「どうして?」「なにが?」とロジックを要求する人がたまにいます。もちろん自分の反応性を言語化していく作業もメタ認知のトレーニングとして大切ですが、子どもにとっては高度な技術ですし、脳の回路も一朝一夕でできるわけではありません。
そもそも人の感覚や感情は非言語的な反応ですから、必ずしも理由があるとは限りません。理由が言語で説明できないからその反応を軽視するのではなく、非言語的な反応性を大切にすることで、「良いな」「素敵だな」「楽しいな」「好きだな」といったポジティブな感情が芽生えやすい脳に変わっていきます。
実際、人の脳には前側の島皮質(Anteria Insula)と呼ばれる、感情の強度を主観的にモニタリングする部位があります。日常生活ではあまり使われる場面がない部位なのですが、嬉しかった出来事を大小あれこれと思い出すことを毎日繰り返していれば、その領域もUse it or lose it の原理で強化されていきます。すると小さな幸せであっても気づきやすい脳になるのです。
自分の内面を言語化するトレーニングは、内省が得意な脳に変わったあとからはじめれば十分です。まずは「なんでかよくわからないけど、そう感じた」という事実を受け入れることです。
「反省会」をやめたらストレスが減った
最後に、以前私の講演に参加された男性から聞いた後日談をさせてください。
その男性はやり手の経営者で、家庭では職場と同じノリでお子さんと毎日反省会をすることが習慣だったそうです。課題意識を強く持ちながら毎日を過ごし、日々行動を改善していく典型的なビジネスパーソン発想です。
強制的にやっていたため子どもは幸せそうにはみえず、それに対して男性もモヤモヤした気持ちは抱いていたものの、「課題解決能力を身につけることは子どもの将来に絶対に役立つ」と信じて続けていたそうです。
しかし、私の講演を聞いて男性は考え方を改めたそうです。
毎日の振り返りで子どもが成長できたことや嬉しかった出来事などに意識を向けるようにしたところ、本人も子どももストレス要因がなくなり、家庭内の会話も増え、なにより幸せな気分で毎日眠りにつけることが嬉しい、と報告をいただきました。みなさんもぜひやってみてください。