※本稿は、青砥瑞人『BRAIN DRIVEN(ブレインドリブン)パフォーマンスが高まる脳の状態とは』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
脳にとってお金は非常に特異な刺激物
我々にとってお金は重要だ。モチベーションを高めてくれるものとしてお金を一番に思い浮かべる人も多いだろう。ここでは、お金についての脳内の情報処理がどのような特異性を持っているのか考察してみたい。
生まれたばかりの赤ちゃんがお金を見て「おお、これは価値あるものだ」と感嘆することは絶対にない。お金は、先天的に価値あるものとして脳内にインプットされているわけではない。成長していく過程で、後天的に価値あるものとして学習される。
成長するプロセスにおいて、すべての生物は無数の体験を重ねていく。ある出来事Aに関するポジティブなエピソードが、エピソード記憶Aとなる。それに付随した感情が、感情記憶Aとして脳の中に痕跡として残る。その記憶が自分にとって好きなものであれば、同じような体験を繰り返す。すると、脳の中ではポジティブなエピソード記憶と感情記憶が太い回路で結ばれ、セットの「価値記憶」として保存、蓄積される。
ところが、大人になればなるほどこの価値記憶を伴う快の体験をお金で買える構造に直面する。むしろ、価値記憶化された快の体験を、お金以外のもので代替することはなかなかできない。その意味で、脳にとってお金は非常に特異な刺激物となる。
さまざまな価値記憶化された快の体験がお金で買えるとなると、その価値記憶はお金と結びつくようになる。お金は脳の中で種々の価値記憶と結びつく特殊な存在なのだ。まさに「Neurons that fire together wire together」の原理で説明できる。さまざまな価値ある体験とお金が同時発火することで、お金の脳での立ち位置が、他に例を見ない存在として脳に居座る可能性が高いのだ。
そうなると、お金がモチベータとして有効になるかという疑問が湧く。
宝くじはドーパミンを誘導しやすい
全員が全員そうなるとは限らないが、たしかにお金は価値として頭の中で記憶痕跡を残しやすい。したがって、報酬予測を導いてモチベータとして役立つ可能性は非常に高い。外刺激として目の前のお金がドーパミンを誘導しやすいからこそ、あり得る原理だと考えられる。
ただし、問題がないわけではない。マウスのドーパミン実験では、報酬が大きくても慣れた刺激にはドーパミンが出ない結果が出た。人間の世界でも、毎月支払われる給料、かつ毎月金額が変わらないと、ドーパミンは出にくくなるだろう。最初の給料にはワクワクしたのに、そのうち当たり前化して、ワクワクしない自分がいることを感じたことがある人は多いはずだ。
重要なのは、予測差分、期待値差分である。これがドーパミン誘導の基礎である。予想外、または経験したことがない金額が、お金によるドーパミントリガーとなる。
宝くじは、当たるかもしれないし当たらないかもしれない。まったく報酬予測が立たない。だからこそ、ドーパミンは出やすい。さらに、もしかしたら数億円という経験したことのない金額を得られるかもしれない。その差分もドーパミンを大いに誘導する。