快の一部がお金という「カラフル」な状態は強い
記憶痕跡化のなかで、脳は記憶情報を一般化していく性質がある。私たちが報酬としてお金の設計を上手に行わないと、学習モチベーションには導けないと言えそうだ。
AさんとBさんがいるとしよう。AさんとBさんは、同じようなプロジェクトに従事している。
Aさんはさまざまな場面で時間軸に沿って体験をエピソード記憶として変換し、その痕跡が脳内に残されていった。ただし、取り立ててポジティブな体験があったわけではない。最終的に、プロジェクトが終わったときにポジティブな情動が得られるお金をもらった。
一方のBさんは、プロジェクトで一緒になったメンバーが楽しい話をしてくれたり、一緒に楽しく食事をしたりしながらプロジェクトを進めた。
つまりBさんは、ポジティブな情動がプロジェクトの体験の中で得られている。もちろん、最後に金銭的な報酬も支払われた。
Aさんの場合、さまざまなエピソード記憶があるなかで、ポジティブな感情記憶はお金から得たものがメインとなっている。一方のBさんに関しては、さまざまな経験量は同じだったとしても、蓄積しているポジティブな感情の記憶がバラエティに富んでいて、非常に「カラフル」な状態である。ポジティブな感情記憶に関して、お金の割合はほんの一部だ。
次にAさんとBさんが同じようなプロジェクトに従事するとき、それぞれが行動するモチベーションは何か考えてみよう。Aさんの場合はお金がモチベータになっている。お金がないと、行動の源泉になりにくいタイプである。
一方のBさんは、さまざまな快のポジティブな体験をしてきて、その一部としてお金があるにすぎない。むしろ、他の行動モチベータのほうが強いこともあるだろう。人に貢献したり感謝されたりする体験があって、そこに快感情が数多くあれば、それがモチベータとして作用し、行動に移ることも考えられる。
したがって、予測されやすいお金というモチベータだけでなく、そのほかの体験におけるポジティブな感情の醸成によるモチベータをもつ方が、より高いモチベーションを導く可能性が高くなるということである。
新しい挑戦をする脳が、ますます重要な時代に
さらに言えば、結果のみにポジティブな感情が芽生えるような設計では、結果に対してしかモチベーションが湧かない。これが悪いわけではないが、そのような人は結果がどうなるかわからないことに挑戦する脳にはならない。
一方、結果に対するポジティブな感情を大切にしつつも、プロセスにおける価値、快感、喜び、やりがいを大切にする人の脳は、たとえ結果がどうなるかわからなくても、やること自体に意味、意義、楽しみを見出し、新しい挑戦をする脳と言える。
実際には、我々の日常において、結果が見えていることなどほとんどない。もしあるとしても、そのようなことは機械か人工知能がやってくれるようになるだろう。これからの時代は、ますます結果ドリブンの脳だけでなく、プロセスドリブンの脳が重要になるだろう。