給料50万円より道端で拾う1000円
道端で1000円拾うのも、ケースとしてはなかなかないからドーパミンが出やすい。逆に言えば、経験の少ない金額、経験の少ない場面に遭遇しない限り、外刺激としてお金からドーパミンを誘導するのはなかなか難しい。そうなると、現在の給料制ではドーパミンの誘導はあまり期待できないだろう。
お金はモチベータとして、外刺激としてもちろん効果を発揮する可能性は高い。だが、あらゆるケースでモチベーションを高めるとは言えないだろう。
一方、内刺激はどうだろうか。頭の中で行うお金の報酬予測は「これをやると、これぐらいの金額をもらえるかもしれない」と考えることだ。
数字としてのお金は定量化されて非常にわかりやすく、予測が立てやすい。予測と結果も一致させやすい。来月の給料が50万円だと言われれば、50万円とわかってしまうから、期待の差分を生むのが非常に難しくなる。だからこそ、飽きたり慣れたりしてしまい、内刺激でもドーパミン誘導が難しいケースが非常に多い。
自分の予測や期待値はわかりやすいため、ポジティブに裏切られることがあればドーパミンを誘導しやすい。その環境が常につくられれば誘導として有効かもしれないが、現実問題としては非常に難しい。
お金は長期的なモチベータとしては難しい
反対に、少しでもネガティブに裏切られると、お金は強く価値記憶化されていることから、怒り、悲しみ、不安、恐怖という強い感情が湧き起こってしまう可能性が高い。場合によっては生存に関わるレベルで脳の中に保存されている人もいるはずだから、より大きな怒り、悲しみ、不安、恐怖でネガティブな情動反応を示す。お金はそのような性質を持っているため、期待が裏切られれば心理的危険状態を導きやすく、集中力も記憶力も行動力もマイナスになってしまう。
お金が他のモチベータと異なるのは、脳の神経回路が種々の記憶と結びついて強い記憶を持つことによって、お金に対する価値観がその人の認知的柔軟性を規定する点だ。ほかのことに関しては受容できたとしても、ことお金に関する限り、ネガティブな情動反応を示すことも考えられる。お金はそれだけ特異で、強力な脳の配線をつくっていると考えられる。
それでは、お金を特殊な存在として扱ったとして、これをモチベータとして使えるだろうか。私は短期的なモチベータとしては使えるが、長期的には難しいと考える。なぜなら、後者の場合には、報酬に慣れる前にお金を少しずつ増やすことで変化をつけなければならないからだ。有限なお金でそのような設定をするのは難しいだろう。