注射そのものは一秒で終わった

注射自体はたった1秒で終わった。去年、肺炎球菌ワクチンを打った時にはぎゅうっと肩に液体を注入する時間が感じられたものだけど、今回はあまりにあっさりで、注射した場所を脱脂綿で押さえるということすらなかった。接種後にアナフィラキシー反応が出る場合に備え、「15分待つように」と指示を受けて、中央の待合エリアに移動する。

接種後のアナフィラキシーに備え、指示された時間待機する部屋。筆者は15分待ったが何も起きなかった。
写真=新津隆夫
接種後のアナフィラキシーに備え、指示された時間待機する部屋。筆者は15分待ったが何も起きなかった。

待機エリア内を見回して気が付いたのは、思いのほか若い人が多いこと。ニュースサイト「Milano Today」によると、ロンバルディアには指定疾患の患者が36万6000人、障がい者は28万3000人いるという。幸い妻と娘を含め、とくにアナフィキラシー反応は出ず、そのまま家に帰った。

5月7日現在、人口約1000万人のロンバルディア州で約400万人がワクチン接種を終えた。イタリア全体では約2300万人(イタリアの人口は約6000万人)。5月半ばにはほぼすべての州で50代の予約も開始される(ワクチン対象外の15歳以下は人口の約13%)。目下のイタリアでは「もうワクチン打った?」が挨拶代わりの言葉となり、国全体に前向きな空気が漂っている。

1年前、未知のウイルスのために街が完全に封鎖され、自宅から最大200メートルまでのエリアしか出ることが許されなかった時とは大違いだ。10万人を超す死者を出している国としては、もはやワクチンにすがるしか道はないという悲壮感もあるはずだが、それをも明るく陽気な空気に変えてしまうのはイタリア人の才能としかいいようがない。

テキトーな国と見られがちだが……

電車が遅れても気にしない。店の計算が合わなくても大目に見る。時間厳守よりはマイペースが尊重される。ステレオタイプに見られるイタリアは悪く言えばテキトーな国である。しかし、長年イタリアに住む日本人を魅了するものは、この国の「やればできる子」感だ。

1990年代末、携帯電話が一般に普及し始めると、欧州でもっとも早く携帯電話の回線数が固定電話を超えたのはイタリアだった。2000年当時、まだ貴族の遊びにすぎなかったゴルフの世界でジュニア育成に力を入れ始めると、たちまち全米アマを兄弟で制覇したエドアルド・モリナリとフランチェスコ・モリナリや、2010年に16歳11カ月という当時の最年少記録でマスターズに出場したマッテオ・マナセロなどを輩出した。

今回のワクチンでも「やるときはやる」、そんなイタリアの一面を再確認する思いがした。

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