「美容院の収入もないなぁ、バイトするしかないかなぁ」

「だってもうこの通りの前は誰も歩いていませんでした。オープンして最初の一週間は1人か2人、来店した程度だったんじゃないかなぁ」

不安でしたか? と私が問いかけると「ちっとも」と、服部さんが言う。

「猫に囲まれて幸せでした。オープン時はボランティアの方が7人いて、力になりましたし、勇気づけられました。昼間、経営する美容院にもお客さんが来ないから、私はカフェの床に寝っ転がっていたんです。美容院の収入もないなぁ、バイトするしかないかなぁってぼんやり考えてましたね(笑)」

奄美大島のノネコが、「ケット・シー」を通じて新しい家族に出会えるまでの流れはこうだ。

奄美大島でノネコが捕獲される
→服部さん(ケット・シー)が引き取ることが決まる
→現地のボランティアがマッチング(お見合い)を代行
→奄美大島で避妊去勢手術を受ける
→空輸を手配し、羽田空港までボランティアが迎えに行く
→2カ月間、「預かりさん」(ボランティア)の家で過ごす
→「ケット・シー」(保護猫カフェ)へ
→希望者と服部さんが面談し、試し飼い(トライアル)期間を経て、正式に譲渡

ボランティアの「預かりさん」は猫の飼育に慣れている人が請け負う。

この1年間に「ケット・シー」を通じて譲渡された猫120匹の写真。このうち42匹は奄美大島のノネコである。
撮影=笹井恵里子
この1年間に「ケット・シー」を通じて譲渡された猫120匹の写真。このうち42匹は奄美大島のノネコである。

健康な猫であれば初期医療費は2万5000円で済むが…

「羽田空港に着いたら、マイクロチップ、ワクチン接種、エイズや白血病の検査、虫駆除、爪切りなど初期医療を済ませます。ただエイズや白血病は感染から2カ月以内だと簡易検査キットでは陽性判定が出にくく、最初陰性でものちに陽性判定となる場合が稀にあるといわれているんです。完全に“シロの状態”で『ケット・シー』に入れるため、預かりさんの家で2カ月飼育してもらった後、もう一度検査をして陰性を確認してから入れるようにしています」(服部さん)

それらの医療費はどこから出しているのか。

「猫を譲渡する際、譲渡金として4万円をいただいていますので、そこから出しています。初期医療費は2万5000円くらいですね」と服部さん。だから健康な猫であれば、十分に譲渡金で賄える。

しかし昨年10月、試練が訪れた。2匹の猫が「FIP(猫伝染性腹膜炎)」という病気を発症したという。発症して何もしなければ数週間で死に至るが、近年、新たな治療法が登場したのだ。しかしその額、1匹あたり150万円――。(続く。第2回は4月29日11時公開予定)

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