「野生化したノネコ」なのに、避妊去勢手術を受けている
保全生物学を専門とする川口短期大学の小島望教授は、「ノネコ扱いにして処分すれば、環境省が掲げるペット由来の猫を極力殺処分しないという方針とも調整がとれるのです」と、解説する。
殺処分計画が始まった2018年7月から、奄美大島で捕獲されたノネコの総数は195匹だ(2021年4月20日現在)。
いまだ殺処分は行われていない。どの猫も、奄美市から認定された「譲渡認定人」の誰かが引き取っているからだ。譲渡認定人の数は現在12人。ノネコが捕獲されると、「捕獲ネコ新規収容のお知らせ」と題したメールが「譲渡認定人」のもとに届く。その一人である服部由佳さんが言う。
「『やむを得ない場合は殺処分』となっていますが、やむを得ない理由とは何でしょうか。奄美ノネコセンターにある50個のケージはいっぱいになったことがありません。つまり捕獲した猫を置いておける場所はあるはずなのに、“1週間の期限”がある。また野生化したノネコとして捕獲されたにもかかわらず、人に慣れていたり、耳カット(避妊去勢手術を受けた印として耳の先端をカット)された猫であることもおかしい」
これまで129頭のノネコを島外の里親に譲渡
前出の獣医師の齊藤さんを中心とした有志は、奄美大島のノネコの殺処分を避けるため、「あまみのねこ引っ越し応援団」を立ち上げて譲渡団体になった。捕獲されたノネコを島外へ輸送し、里親をこれまで探す活動をしている。同団体を経由して129頭のノネコの“新しい家族”が決まった。
齊藤さん自身、「初めてノネコを引き取る時、とてもドキドキした」と打ち明ける。
「東京の野良猫だって餌をあげようもんならバッシーンとされますし(笑)、噛まれてぶら下がられることもしょっちゅうです。だから奄美大島のノネコを引き取る時、どれだけ凶暴なんだろう、と。でもぜんぜん怖い猫ではなかった。東京の野良猫のほうが人にいじめられたり、車で怖い思いをした経験があるからか、よほどすれています。奄美大島は野良猫も人なつっこい、かわいい猫が多い気がします」
ノネコ管理計画がスタートして一年が過ぎた頃、服部さんは「譲渡型保護猫カフェ」の立ち上げを思い立った。それまでは個人で猫を引き受け、里親を探してきたが、奄美大島の猫の捕獲数が増える状況で、「このままでは殺処分される猫が出てきてしまう」と危機感を覚えたという。
「以前から保護猫カフェをつくることが夢でもあったんです。もともと動物が好きで、11年前に黒猫を駐車場で保護してから猫中心の暮らしになりました。そして4年前くらいから猫のボランティア活動を始めたんです」