とりわけ、これまで日本政府が慎重に避けてきた台湾問題に触れるかは政権内部で意見が割れたため、外務省も事前に共同声明を出すかは未定と述べていた。英ロイター通信は16日、米政府高官の「日本が全面的に支持しないどんな声明も出すつもりはなかった」という談話を紹介したうえで、共同声明を出せたこと自体に意味があったと示唆した。

従来の日本政府の態度は、米国政府も承知のうえだ。だからこそ、欧米を中心とする中国包囲網の形成を目指すバイデン政権にとって、「日本もこれに参加した」というメッセージを発すること自体が当面の最重要課題になったとみてよい。だとすると、中国の最も触れられたくない台湾だけでなく、香港やウイグル自治区にまで言及する共同声明を出せたことそのもので、米国は一応満足せざるを得なかったといえる。

共同声明の曖昧さ

その一方で、ニューヨーク・タイムズなどが指摘するように、日本政府の希望に沿って共同声明の文言がよりマイルドになった痕跡は隠しようもなく、この点にバイデン政権が不満を抱いても不思議ではない。

地図上に固定された台湾と米国、奥に中国の国旗
※写真はイメージです(写真=iStock.com/avdeev007)

例えば、最大の焦点となった台湾について共同声明には「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とある。一見、台湾問題に深く立ち入った文言であるようにみえるかもしれないが、内容としてはこれまでの確認事項にすぎない。「台湾問題の平和的解決」は1979年の米中国交正常化の際に合意された項目の一つで、中国側も公式には受け入れていることだ。

日米首脳会談の2日前、4月14日にバイデン政権が高官3人を非公式に台湾へ派遣し、台湾海峡での有事に備えて支持を鮮明にしたことからすると、共同声明の文言が抑制されたトーンだったことは確かだ。

また、香港や新疆ウイグル自治区などに関して「人権状況への深刻な懸念を共有する」と記されているが、「懸念」とは「心配して注意深く見守る」ことであって、そこに明確な非難や批判の意味はない。米国政府がウイグル問題を「大量虐殺」と呼んだことに比べれば、温度差は大きい。ちなみに、「懸念」は日本政府が中国に対してすでに直接伝えていることでもあり、これまでより踏み込んだ表現ではない。

さらに、共同声明では5Gの日米共同開発について確認された一方、米国が進める中国通信企業の締め出しについては盛り込まれなかった。中国企業の参入を妨げない限り、日米が技術協力すること自体は世界貿易機関(WTO)のルール上、中国が公式に文句をいえる筋合いではない。