西側諸国は敵わない中国のスピード感

中国では、国家主導のもとで巨大なデータベースが構築されようとしている。データ収集が企業や国の競争力に直結する昨今、いとも簡単に個人情報を吸い上げて、ビッグデータを構築する中国には、西側先進国も敵わない。

当然のことながら、個人情報の扱いに対して、欧米日など西側先進国は慎重だ。日本経済新聞によれば、2019年夏、米フェイスブックが個人情報を不正に流出させた事件をめぐり、米連邦取引委員会は同社に50億ドル(約5400億円)を課した。ドイツでは同年2月、フェイスブック利用者からのデータ収集を「競争法で禁じる優越的地位の乱用にあたる」と判断し、個人情報を保護するため、データ収集に対して制裁を課した。

一方で、コロナ禍という非常時に、中国の国民が「国家に捧げた一部の個人の権利」は、社会全体を「ウイルス封じ込め」に導くための重要な助けになった。個人が譲歩することは、社会主義国家の国民にとって当たり前であり、振り返れば、中国が短期のうちに高速発展を遂げたのも、「個人の主張」を優先しない社会であることが大前提となっている。

そしてこのまま国民が個人の権利を主張しなければ、中国は将来のデジタル社会においてもさらにスピーディな発展を実現することになる。すなわち、ビッグデータをめぐる世界競争に勝ち、デジタル覇権を握ることが可能になるというわけだ。

「個人の権利を尊重すれば社会の効率は下がる」

中国で多くの視聴者を集める動画に「一勺思想」がある。学術界の著名人が数分の枠内で自身の思想を語るシリーズもののネット配信チャンネルだが、2020年5月、退役少将で軍事作家の喬良氏がこれに登壇し、次のように語った。

「こんにち、“個人のプライバシーの譲渡”はあらゆるシーンで行われているが、インターネット上でもそれは同様で、すべてのアプリにおいて、『同意』しなければそのサービスが使えないというしくみになっている。

逆に、プライバシーを保護しようとしたり、個人の権利の譲渡を拒否したりすれば、社会全体の効率は低下してしまう。個人の一部のプライバシーを譲渡して社会発展に使えば、社会の安全性も保たれ、また『効率』という社会全体の進歩を獲得することができる。プライバシーを重視しない中国人の在り方は、新しい時代の価値観に合致するのだ」

効率ありき、社会ありき、国家の発展ありき――そのためには個人は権利を譲渡せよというメッセージであるかのように聞こえる。中国のデジタル覇権国家への暴走を許せば、14億人の中国人は超監視型の社会の中にがっちりと組み込まれることになる。中国が構築し世界に示そうとするモデルの根底には、まさしく自由や民主への挑戦がある。