会社が出してきた書類には絶対にサインしてはいけない

でも上記第20条に従えば、30日前に解雇すると告げさえすれば、会社は自由にクビを切ることができるのでは? そこには、別に縛りがあるのだ。次のような規制がある。

・労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

つまり大災害で会社の継続ができなくなった場合や、倒産のとき、あるいはあなたが犯罪を犯したときのように、誰が見ても「それじゃ解雇も仕方ないよね」というような理由がなければ、解雇はできない──。つまり社員の解雇はきわめて難しいのだ。

にもかかわらず多くの人が「リストラされた」と口にするのは、会社が不当に解雇したことに対して異議を唱えないか、法律を知らないままに、退職に同意する用紙に署名したりしたからだ。

実際のところ、「このまま解雇されると退職金がもらえなくなるが、退職に同意してもらえれば退職金はもらえる」などとデタラメで言いくるめ、社員を自発的な退職に追い込む会社はめずらしくない。

だから会社からクビをちらつかされたら、会社側からの書類には絶対にサインしてはいけない。嫌がらせをされるようなら、記録をとっておき、弁護士や労働基準監督署に会社側を処罰できないか相談すべきだ。

日本人男性ビジネスマン
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会社に残る場合は、嫌がらせを継続的に阻止する必要がある。こうした場合には労働組合を頼ろう。労働組合には団体交渉権といって、会社側の代表を話し合いの席に強制的につかせる権利が与えられている。

えてして退職に追い込むために嫌がらせを実行する会社は、社内に労働組合がないことが多い。全労や全労連など、外部の交渉力に長けた労働組合に参加するのがベストだろう。

「クビにするならやってみろ!」という心構えが大切

いかに社員をクビにするのが難しいか、おわかりいただけただろうか? 極端なことを言ってしまえば、「クビにするならやってみろ!」というくらいの心構でいて差し支えないのだ。

仮に合法的にクビにされても、会社都合での解雇なら、すぐに雇用保険が支給される。自発的に退職した場合、雇用保険は、退職後3カ月から支給となるから、会社側からの退職勧奨に応じるメリットはない。

働く人は、実は法律で手厚く守られている。にもかかわらず法律を知らなかったり冷静な判断を保てなかったりすると、会社側の策略にはまって退職に同意してしまうことがありうる。

退職に同意しなくても、働くうえでデメリットは生じないし、あとで詳しく説明するパワハラ防止法をはじめとした法律で会社からの嫌がらせを止めさせることだってできるのだ。慎重に会社と交渉してほしい。