「延命措置は希望しますか?」と訊ねられ「結構です」と即答したワケ

ある晩、母親が目を離した隙に父親が徘徊。転んで額に大けがを負う。気付いた誰かが救急車を呼んでくれたため、蜂谷さんは父親と共に病院へ。父親は傷を縫合してもらい、入院した。

その退院の日にも、母親は動かなかった。蜂谷さんの夫は子育てには協力的だったが、介護に関しては何ひとつ手伝ってはくれない。だが、足腰の弱った父親を、女性の蜂谷さん一人で連れ帰るのは難しい。仕方がないので店の男性スタッフを連れて父親を迎えに行った。

集中治療室で懸命に治療にあたる医師たち
写真=iStock.com/Georgiy Datsenko
※写真はイメージです

2007年5月。父親はデイサービスで再び脳梗塞を起こし、半身まひに。ケアマネジャーが入居できる施設を複数提案してくれたが、蜂谷さんは入所を迷った。すると店の女性スタッフが、「入所できるところがあるうちに入っておいたほうがいいですよ」と背中を押してくれた。

父親はグループホームに入所。すると、それまで父親の症状がどんなに悪くなっても関わらなかった母親が急に「父親に面会したいから連れて行け!」と言うようになる。

蜂谷さんは39歳。昼間は美容室で働き、休みの日は父親の面会。息子の帰宅前には家にいるようにした。

6月。日差しが強くなってきたので、蜂谷さんは夫と息子とで帽子を買い、父親にプレゼント。しかし父親はもう、孫の名前さえわからなくなっていた。

その数日後、グループホームから「お父さんが肺炎を起こして発熱しました」と電話が入るが、母親はまた動かない。蜂谷さんが一人で行くと、「延命措置は希望しますか?」と訊ねられ、蜂谷さんは「結構です」と即答した。

父の葬儀の日が、40歳の誕生日。蜂谷さんは不整脈を起こし、脈拍180

「冷たく思われるかもしれませんが、好きな食べ物も食べられず、何の楽しみもない父。自分だったらと思うと、これが最善だ、もう十分だと思いました」

7月。グループホームからの電話で、「お父さん、息をしていません」と聞いた蜂谷さんは、そのまますでに亡くなった父親のもとへ向かった。母親は叔母と買物。夫と息子はゲームセンターへ行っていた。

父親の葬儀の日、久しぶりに会った従姉妹が、「誕生日おめでとう!」と、言ってくれた。偶然にも父親の葬儀の日が、蜂谷さん40歳の誕生日だったのだ。

蜂谷さんは葬儀後、不整脈を起こした。脈拍は180。時間外で病院を受診し、注射で数値を下げてもらい、念のため2時間点滴を受けた。

以下、後編に続く。

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