話がオカルトめいてきたと思われるかもしれませんが、実際そうです。『トランプ時代の魔術とオカルトパワー』(2020年)の著者、ゲイリー・ラックマンは、トランプの常に揺るがない「勝利」への自信の背後に、彼が若い頃から心酔していたポジティブ・シンキングの影響を読み取っています。
例えばトランプは1987年に発表した自伝のなかで「わたしは負けず嫌いで、勝つためには法の許す範囲ならほとんど何でもすることを隠しはしない」とすら述べていたみたいです。このような「勝利」への執念には、何か尋常ならざるものが感じられます。
ちなみに自伝にも登場する弁護士、ロイ・コーンが若き日のトランプに与えた影響も、よく指摘されるところです。そのコーンは1981年に発表した著作のうちで、『マタイによる福音書』を引きながら、概ねこのような話を述べていたそうです。
晩年には法曹資格を剥奪された悪名高き人物、コーンに学んだ姿勢と、ポジティブ・シンキングによる心構えとの組合せは、おそろしい効果を発揮した、とまとめうるのかもしれません。
自己啓発と陰謀論が重なるとき
ともあれ、ポジティブ・シンキングに根ざした自己啓発書は、私たちが思うことは必ず現実になるし、そのことに例外はひとつもない(ただし努力すれば)とするジェームズ・アレン『原因と結果の法則』(原著は1903年)など、今日でも盛んに翻訳され、書店に並んでいます。
ただの精神論なら騙されまいと思うかもしれませんが、例えば実用的なテクニックの開陳と合わせて主義主張を語られていたりすると、実績があり、信頼できる人の話ならばと、つい真に受けたくもなってしまうものです。
それを真に受けて、少なくともある程度は、「うまくいく」ように映る人も出てきてしまうことが、話をややこしくします。だから、実際の効能とは別の観点から捉えてみましょう。例えば、形式。自己啓発書はどういう形式で、なぜ需要があるのでしょう。
自己啓発書には、そのメッセージの受け手(読者)と同時に、送り手(著者)が常に必要です。自己啓発書が氾濫する時代とは、目標とするべき、規範となる自己のあり方や生き方を断定し、そこへ向けて読者を導いていくようなメッセージが大量に発信・消費されるような時代なのではないでしょうか。