暴排の動きは2008年から始まった

暴排の狼煙が上がったのは2008年です。経済界からの暴排は、銀行の「金融暴排」に代表されます。これには、2007年、暴排条例制定以前に公表された政府指針「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が寄与しました。2010年以降、全国で暴排条例が施行されてからは、銀行口座開設をはじめとする諸契約には、反社会的勢力に属していないかどうかのチェック項目「暴排条項」が設けられるようになりました。

現在、金融暴排は更に徹底され、暴力団や半グレ(詳細は後編「『NHKも誤解している』本当の半グレは“ケンカの強いアウトロー”なんかではない」参照)など反社会的勢力との関係を確認する企業コンプライアンスは常識となっています。

この基準をもっと簡単に言うと、警察庁や銀行のデータベースに登録されている者はもちろんアウト。あとは、パソコンで検索した結果、過去に暴力団組員としての逮捕歴があったり、特殊詐欺などの前歴がある、あるいは、暴力団と「もちつもたれつの関係がある」と当局が認定している者などは、銀行口座の開設が危うくなるということです。

暴排強化の問題は、国会でどう取り上げられてきたか

2019年12月10日、政府は「反社会的勢力」の定義について「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定しました。政府による「反社会的勢力」の過去の使用例と意味については「政府の国会答弁、説明資料などでのすべての実例や意味について、網羅的な確認は困難」としました。さらに、菅義偉官房長官(当時)が記者会見で「定義が一義的に定まっているわけではない」とも述べました。

ただし、政府の答弁書は「現在、企業は指針を踏まえて取り組みを着実に進めている」とも述べています。ここで言う「指針」が、2007年7月に開かれた第9回犯罪対策閣僚会議で取りまとめられた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」のことです。

暴排強化の問題については、過去にも国会でも取り上げられたことがあります。暴排条例が全国で施行された直後の2012年5月18日参議院において、又市征治議員が、平田健二議長に対し、「暴力団員による不当な行為の防止等の対策の在り方に関する質問主意書」を提出しました。

その中では、「『暴力団排除条例』による取締りに加えて、本改正法案(暴力団対策法改正案)が重罰をもって様々な社会生活場面からの暴力団及び暴力団員の事実上の排除を進めることは、かえってこれらの団体や者たちを追い込み、暴力犯罪をエスカレートさせかねないのではないか(傍線筆者)。暴力団を脱退した者が社会復帰して正常な市民生活を送ることができるよう受け皿を形成するため、相談や雇用対策等、きめ細かな対策を講じるべきと考える」(第180回国会〈常会〉質問主意書第116号)として、又市議員は、暴力団離脱者の社会復帰における社会的「受け皿」の形成の必要性に言及しています。

しかしながら、その社会的受け皿は、暴排条例施行後10年経った現在も、十分に形成されていないという現実があります。