離脱後10年経っても口座開設を断られた

2019年9月11日の西日本新聞紙面に「離脱10年、開設断られる諦めて内定辞退も」という見出しで、離脱後10年経っても口座が作れなかった元暴の声が掲載されました。

「お客さまの口座はつくれません。この部分に該当してないでしょうか」──2018年5月、10年前に刑務所で服役中に暴力団を離脱した男性は、勤務先の振り込み口座開設のために赴いた銀行で、その銀行が有する「反社」リストに掲載されていたため、窓口で口座開設を謝絶されました。結果的に、男性が勤務する福祉関連の会社が銀行と交渉し、なんとか口座開設が叶い、仕事を失わずに済みました。この時、もし、会社が男性のために骨を折らなかったとしたら、彼は仕事を失っていたかもしれません。

また、別の指定暴力団を離脱して3年半たった40代男性は、知人が経営する会社への入社が内定していましたが、口座開設を求められて辞退しています。「知人は『過去』を理解してくれたが、ほかの社員は知らない。『元暴5年条項』も頭をよぎった。元組員と分かり、(会社に)迷惑を掛けるかもしれない」と思って身を引き、自ら会社を営む道を選びました。

報酬が振り込まれる口座は、幼少時代につくっていた「休眠口座」を活用しているとのこと。しかし、男性は、家や車、携帯電話の契約にも苦労していると言います。

「『生きるな』と言われているよう。偽装離脱の懸念から条項は必要だが、更生した人には柔軟に対応してほしい」と、その心中を吐露しています。

生きるために元暴アウトローとして犯罪に従事せざるを得なくなる

このような真正離脱者(更生の意思をもって離脱した者)としての元暴が社会復帰しづらいケースは、現代社会で散見されます。暴力団離脱者(と、その家族)は「反社」と社会からカテゴライズされ、社会権すら極端に制限されている現状があります。だからと言って、暴力団員歴を隠して、履歴書や申請書に記載しないと、虚偽記載となる可能性があるのです。暴力団組員の宿泊を断るホテルに黙って泊まっただけで、詐欺扱いで逮捕された現役組員のケースもあります。

こうした極端な社会権の制限は、暴力団や暴力団の枠から外れて犯罪活動に従事する偽装離脱者を念頭に置いた対策であることは理解できます。しかし、真正離脱者には柔軟な対応が求められます。なぜなら、折角、更生しようと思って離脱した真正離脱者が、カタギとして生き直しができず、生活困窮の挙句、生きるために元暴アウトローとして犯罪に従事せざるを得なくなる可能性があるからです。

個々のケースを見ずに、もともと暴力団に在籍していたのだから、更生なんかできない、再犯の可能性が高いだろうという偏見の下で、「反社」とすべてを一括りに扱うことに対して、筆者は違和感を覚えます。