中小企業経営者は税理士を有効活用すべきだ

書き出しは「中小企業経営者の皆さん」という呼びかけで始まる。著者は税理士であり、27年前に静岡県浜松市に事務所を設立した。多くの経営者と接し、指導をしていく中で得た結論が、本のタイトルだ。

「会社を強くする“主人公”は誰でもありません。経営者自身なんです。ところが残念なことに、記帳や決算というと、義務感や面倒くささが先に立ってしまい、会計の持つ限りないパワーをフルに発揮させている企業はわずかでした」

そんな現実を見るにつけ、坂本氏は「はたして、会計は中小企業に役立っているのか……」という疑問を感じる。彼は36歳のときに一念発起して東大法学部の大学院に合格。多忙な業務の合間をぬって上京し、会計の本質を探究した。会計の歴史を紐解いてみると、そもそも、その目的は倒産防止と健全経営の遂行であったことを知る。

「世界で初めて、国家的規模の商法を策定したのが、重商主義で知られるルイ14世でした。1673年の『フランス商事王令』です。当時は不況の真っ只中。そこで、商人に記帳や決算書の作成を義務づけ、違反者は死刑に処せられました」

厳しい半面、会計というルールで倒産を防げるとなれば、正しい記帳と決算は商人にとって、自らを守る権利でもあった。そして現在、経営者、企業を守るためには、黒字決算が必要になっている。坂本氏も所属するTKC全国会は、月次巡回監査の実践で、関与先企業の財務体質を強化してきた。

「わが国の企業で、毎月の業績を翌月早々に把握できているところは2割もありません。つまり、9割弱の経営者は、会計で経営をしていないといえます。会社を運営していくうえで、できるだけ早く業績を把握することは何にもまして大切です」

もちろん、経営者1人では難しい。それをサポートするのが、社長の〝親身の相談相手〟である税理士の役割ということになる。その意味で「会計で」のもう一方の担い手は実務家である彼らにほかならない。

「バブル崩壊後の経営環境は激変しています。例えば、日本版会計ビッグバンは、金融機関に危機感を与え、中小企業の資金調達を厳しいものにしました。赤字なら、税金を払わなくてもすむなどと、ほくそえんでいた経営者も、赤字決算を許さない銀行の融資姿勢に肝を冷やしたはずです」

いま、多くの中小企業は世代交代の時期を迎え、事業承継が待ったなし。会社を強くして、後継者につなげなければならない。そこでは改めて、複式簿記に基づく会計力・経営力の強化が求められるのである。