なぜ「ロス」が起きているのか

彼らの「日本に行きたい願望」、つまり「日本ロス」が強くなっている第1の理由は、ここ数年、日本に足しげく通っていたリピーターのほとんどが、もう1年以上も日本に足を踏み入れることができない「禁断症状」に陥っているからだ。

中国人の訪日観光客が急速に増えたのは2014年ごろからで、同年の観光客数は約240万人だったが、「爆買い」ブームの2015年は約499万人、2019年は約959万人とうなぎ上りで増えていた。そのうち、約半数がリピーターだ。距離的にも文化的にも近く、中国の都市部よりも物価が安く、安心・安全でおいしいものが多い日本は、経済的に豊かになった彼らの間で、あっという間に人気の旅行先となったのだ。

2015年10月13日、人でいっぱいの浅草寺の仲見世通り
写真=iStock.com/AndresGarciaM
※写真はイメージです

また、昨年、コロナ禍で日本からたくさんのマスクを寄贈してもらったことにより、中国人の対日感情が好転していることも、日本への興味・関心の高さにつながっている。

いつでも旅行に行けるような状態なら、とくにそう強く「日本に行きたい」と思わないかもしれないが、いざ「行けない」となると、行きたくなる気持ちが募る、というのが人間というものだ。これは、今、海外旅行に行きたくても行けないと思っている日本人なら、よく理解できる心理ではないだろうか。

「さすが日本の蔦屋はワンランク上だ」

しかし、中国国内、とくに、中国の中でもトレンドに敏感でファッションセンスが高い特別な都市・上海を例にとってみれば、実は、いつの間にか、街の至るところに「日本」があふれていることに気がつく。

最近の話でいえば、2020年12月に、日本の蔦屋書店がオープンして話題になったばかりだ。蔦屋書店は同年10月に上海から高速鉄道で1時間半の杭州にもオープンしており、上海は2店舗目。上海店は「上生新所」という1924年にアメリカ人建築家によって設計された洋館の中にあり、店舗面積は約2000平方メートル。

中国の書店なので、もちろん、中国語の本がメインだが、日本語の書籍や欧米の美術書、ギャラリースペースなどもあり、一般的な書店というよりも、落ち着いた文化サロンといったオシャレな雰囲気を醸し出している。

私の友人たち数人もオープンから間もなく出かけたと話しており、店内の写真を見せてくれたが、そこはまるで東京・代官山の蔦屋がリニューアル・オープンしたのでは? というほど洗練された空間だった。上海や杭州など、中国の大都市には、すでにオシャレな書店が続々と増えており、別に蔦屋が「オシャレ系書店」の先駆けというわけではない。だが、私の友人の1人は「やっぱり、さすが、日本の蔦屋はワンランク上だと思った」という感想を私にもらした。