「有力候補」は社によって大きく食い違った

川淵氏は12日の組織委の会合で会長就任の辞退を表明。その後の後継選びの混乱はご承知の通り。「橋本氏に一本化」が報じられた17日夕までの間、メディアは思い思いの候補者名をあげ「有力候補」を伝え続けた。

内閣改造する前夜の報道のようだが、改造報道との違いもあった。閣僚人事の時は、おおむね各社の予想は同じとなるが、今回は社によって報じる内容は大きく食い違った。

スポーツ紙の報道を例に取りたい。

日刊スポーツ、サンスポは柔道金メダリストでJOC会長の山下泰裕氏を推した。

スポーツ報知はシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)でのメダリスト・小谷実可子氏を有力に上げた。一方、スポニチは17日朝刊では、山下、橋本、小谷の3氏を並べて報じた。

この他、名が上がった人物を列挙しておこう。安倍晋三前首相、丸川珠代元五輪相、水泳金メダリストで前スポーツ庁長官の鈴木大地氏、ハンマー投げ金メダリストで現スポーツ庁長官の室伏広治氏、マラソンの有森裕子氏、フィギュアスケートの荒川静香氏、バレーで活躍し日本バスケットボール協会(JBA)会長の三屋裕子氏、柔道の山口香氏。プロ野球DeNAのオーナーを務める南場智子氏の名も報じられた。

橋本聖子氏は「政治部推し」の銘柄だった

なぜ、これだけの名が次々と上がったのか。五輪を渦巻くさまざまな思惑が交錯したからだ。例えば菅義偉首相ら政府側は橋本氏の起用を主導した。五輪相としての経験から政府の意向が反映されやすいのがポイントだった。菅氏は、川淵氏が会長候補に浮上した時「もう少し若い女性を」と求めたと言われるが、56歳の橋本氏は、そういった意味でも適任だった。

アスリート
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一方、組織委側は、JOC会長として組織委とスクラムを組んで取り組んでいた山下氏を推す声が強かった。東京都からは小谷氏待望論が多かったという。

それに加え、後任人事を伝える報道の「司令塔不在」も混乱に拍車をかけた。政治部記者は政府の意向を重視。社会部記者はJOCや組織委の声を代弁する傾向があった。そして運動部記者はアスリートの声を多く拾った。最終的には政治部推しの橋本氏に落ち着いた。