「卵子凍結という手段がある」

「そこで、子供を持つ選択肢を残しながら、アスリートとしてのキャリアも出産も可能な状態でいるためにはどうしたらいいのかを真剣に考えました。すぐ結婚する予定はないですが、可能性だけはどうしても残したかった。海外の友人に以前から『卵子凍結という手段がある』と聞いていたのは大きかったです」

「そういう選択肢について真剣に考えて調べ始めると、アメリカでは卵子凍結が福利厚生の対象になっている企業もあるという実情も知り、背中を押されました。その後、帰国して知人と食事をしていた際、進退に関する話題になって、卵子凍結にも話が及んだところ、『いいクリニックの先生がいるよ』という話になった。早速、紹介してもらうことになりました」

思い立ったが吉日。それが竹内さんの行動パターンだ。卵子凍結に踏み切るに当たって、本や参考資料を読みあさり、ドクターにも疑問をぶつけた。

「まずは採卵から凍結までの流れ、費用、体への負担や、どれくらい時間がかかるのか、などを聞きました。実は私は、2009年に卵巣の手術をしているので、何らかのハンディキャップがあると感じていた。そのあたりについてもしっかり聞いて、自然と『やろう』と思えました。実は、この時紹介されたドクターが、2009年に手術を担当してくださったドクターと同じ方だったんですね。そういうところにも縁を感じました」

「私はまず頭で理解してから先に進みたいタイプなんです。何かを始めようとするときは、しっかり納得してからでなければ前に進めない。ホントに子どもを授かるのは大変なことだとよく分かりました。卵子凍結や不妊治療を経て妊娠・出産・子育てを経験している方々に思いを馳せる機会にもなったと思います」

痛みはあったが「明るく取り組めた」

納得いくまで話を聞き、現実を知り、実行に移した竹内さん。とはいえ、肉体的な負担はやはり重かった。

彼女の場合は2回に分けて、合計約20個を採卵。全身麻酔をかけた状態で採取したため、その間はチクチクする程度だったというが、麻酔が切れた後のダメージはやはり少なくなかった。

「1週間くらい前から準備のための注射をして臨みました。採卵の後、麻酔が切れた時は痛みが強く、その後1週間くらいはお腹の張りが続きました。トレーニングも3週間くらいはほとんどできず、ストレッチや有酸素系の運動でコンディションを維持するのが精いっぱいでした」

「それでも、私は競技でこれまでいろんなケガをしているので、痛みや体調不良などで苦しかったりつらかったりすることには比較的、向き合えるのかなと(苦笑)。それに、自分が妊娠しにくいタイプかどうかはまだ分からない。もし今後、不妊治療を行う可能性があるなら、治療の中ではやはり採卵が一番痛みもあり大変だと聞いたので、それを今経験しておけば、あとで恐れずにすみ気持ちが楽になれるなと。『全て自分の未来のため』と思えたので、明るく前向きなマインドで取り組むことができました」

競技中の竹内智香さん。ニュージーランドで
写真提供=本人
競技中の竹内智香さん。ニュージーランドで