要するに、アジア系は人口比だけ見ると少数の有色人種だが、サクセスフルなグループのため差別対策の対象とはなりにくく、長く組織的な抑圧の歴史のある黒人とは対照的である。

ポール・ファッセルは1983年に著書「階級(クラス) 『平等社会』アメリカのタブー」(光文社文庫)で、流動的に見えるアメリカの社会階級には「嫉妬」という危険性があると述べている。今日でもこの考えはかなり当てはまり、とりわけアジア系に不利に働いていると感じる。

ボストンエリート学校入試騒動の顛末

ボストン・ラテンスクールは1635年創立のアメリカ最古の学校で、ボストンのエリート公立校である。卒業生にはアメリカ建国の父と言われ、凧を用いた実験で雷が電気であることを証明するなど多才で知られるベンジャミン・フランクリンなどがいる。学費が高騰するアメリカにおいて、授業料が無料の公立校であるため人気が非常に高い。

ハーバード大による2018年の調査では、黒人やヒスパニックはボストン公立学校生徒の75%を占めるが、ボストン・ラテンスクールでは20%にすぎない。主な理由として、現行の選抜方法が公立校で教えている内容以上の準備を要求しており、予備校や家庭教師などをつけて対策が可能な裕福な白人、アジア系に有利となっており、学校の授業のみで勉強している黒人、ヒスパニックに不利なため、としている。

この件に関し、公民権弁護士がボストン市への訴訟を準備していたことから、ボストン公立校の教育委員会は選抜試験制度を再検討していた。ところが、コロナウイルスのパンデミックで試験が困難な今年に限り、入学試験施行の中止、ボストン・ラテンスクールの80%の枠を、入学希望生徒の学校での学業成績または在学中の一斉学力進達テストの成績を参考に生徒の居住する郵便番号に応じて分配すること、また分配は世帯収入の中央値が低い地域から優先的に行うという緊急措置を満会一致で可決した。

この措置により黒人はとヒスパニックは大きく比率を増やす一方、アジア系は大幅に減少するというシミュレーション結果が示されている。しかし、これはボストン市内の人種の局在の問題なのであろうか?

アジア系が抱える内情…グループ内の大きな格差

ボストン再開発公社の2015年の統計によると、ボストンの高級住宅街「ビーコンヒル」に住む人種は圧倒的に白人が多く、黒人は1%、年収の中央値も9万3000ドルと高い。これに対し、治安が悪いことで知られる「ロックスバリー」では黒人53%、白人は32%であり、年収の中央値も2万6000ドル程度と圧倒的に少ない。