一方、アジア系はどちらの極端な地域でもメジャーな存在ではない。学業成績のいい東アジア(中国)系は収入の中央値がボストン全体に近いダウンタウン付近に集中して居住し特異的な位置を占めていることから、郵便番号に基づく割り振りはアジア系に対して不利と言える。

さらに注目すべき点は、グループ内での貧富の差が最も大きいのがアジア系ということである。90年代に高度技能を保持する移民流入を促す移民関連法案が次々に成立し、インドや中国などから多くの高度技能移民がアメリカに流入、それ以前の低度技能保持者が主流のアジア系移民と収入格差が拡がる原因となった。

全国地域再投資連合によると、フィリピン系の中央値は8万ドル程度に対し、ミャンマー系は3万6000ドル程と言われ、アジア系の全体の貧困率も10.1%と白人の8.1%に比べて高く、グループ内での経済的な格差が大きい。

白人が公立校に少ないのは、授業料のかかる私立校に通うからであるが、ボストンにいる87%のアジア系の生徒は授業料がかからない公立校に通っているため、アジア系が「裕福」で教育にふんだんにお金がかけているというのはアジア人全体から見ると実情にあってはいない。

マイクに拾われたチェアマンの暴言

この緊急措置の採決前には8時間以上にわたって公聴会が開催された。主に中国系の保護者が多数、たどたどしい英語または通訳を通じて強い調子で反対意見を述べた。

マサチューセッツ州の70%のアジア系は外国生まれと言われているため、英語が流暢に話せない層が多い。その多くは、レストランやホテルなどで働き、子供に成功してもらいたい一心で無理を重ねて予備校などの資金を捻出し子供に投資していること、この制度により家族ぐるみの努力が無駄になるという主張であった。

ただ、同情している人はアジア系以外にはおそらく皆無であろう。公聴会に先立つ委員会でも、はっきりとアジア系を減らしてバランスを取る必要があると公に議論されているが、これに対する反対意見などは格段考慮されてはいない。

この公聴会は夜半まで延々と続いたが、たどたどしい反対意見を仕切るのに疲れたのであろう委員会のチェアマンが、マイクをミュートするのをうっかり忘れてアジア人をばかにするような言動を行った。おそらく、このチェアマンの言動が多くの人のアジア系への正直な心情であろう。このチェアマンは翌日辞任に追い込まれはしたが、もし黒人に対してこのような言動をとった場合、もっと大変な騒動になっていたはずだ。