成功している?……アジア系アメリカ人の苦しみ

アメリカにおいて中国やインドをルーツに持つ「アジア系」への感情は複雑だ。

アメリカ合衆国国勢調査によると、アジア系の世帯収入の中央値は2018年に8万7000ドル程でアメリカ全体の6万3000ドル、白人の7万ドル程度も上回る。黒人は4万ドル程度なので、アジア系はかなり成功しているといえる。

私の所属するハーバード大学医学部では、2019年の入学者165人のうち、アジア系は45人と27%を占め、アメリカでアジア系の占める人口比5.9%に対し圧倒的に多い。これに対し、黒人、ヒスパニックなどを合わせたのが39人(24%)で、人口比の計32%に比し少ない。医学部以外の学部や、他の有名大学でも同様の傾向が見られる。

大学生
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米国科学委員会の2010年の統計では、黒人、ヒスパニックやアメリカ先住民などが科学および工学分野の従事者の10%である一方、アジア系は19%と比較的多い。ハーバード大学医学部での教員の組成も2019年にはアジア系教員は20.8%を占め、これに対し黒人、ヒスパニックなどを合わせた教員の割合は6.2%だ。

それゆえ、私が働く自然科学の研究の現場では、黒人、ヒスパニックの研究者を増やすべくいろいろな政策がとられているが、アジア系を対象とするものは見当たらない。むしろハーバード大学は2014年、学業成績だけだとアジア系がもっと多くなるはずなので面接などの入試過程でアジア系学生を積極的に減点し、差別しているのでは、と訴えられている。

黒人とは対照的なマイノリティー

私も渡米間もない当時、職場で「医学領域における過小評価グループ(underrepresented in medicine)の支援プログラム」の通知があった時に、隣に座っていた大学院生に「アジア人はアメリカで少数派だから、応募できるよね!」といったところ、「アジア人は医学領域では多すぎる」「あなたが応募しても当たる可能性どころか申請を受理してもらえないだろう」と言われた。

確かに、そのメールをよくよく読んでみると、最後に小さい字で“Please note”から始まり「アジア系はカンボジア人など過小評価グループと定義されている特定の出自がない限り、申請の権利はない」と書かれていた。この大学院生は14歳の時に香港より単身渡米してきてジョンズ・ホプキンス大学を卒業し、マサチューセッツ工科大学の大学院に通っていたが、過去に奨学金の申請や大学入試などで苦労を味わっているとのことだった。