前出のアンドリュー・ヤンは、2019年9月12日に行われた民主党予備選のディベートで医療保険制度について質問された時に、「私はアジア系なので、たくさんの医師を知っているから、医療は理解している」と、サクセスフルなアジア系のイメージを使って半ばジョークとして発言し失笑を買っている。

彼は科学嫌いのトランプのMAGA(Make America Great Again)に対し、“Make America Think Harder”(MATH)というスローガンを用いているが、これもアジア系は数学が得意というステレオタイプを利用したもので、あまり受けは良くないようである。

顕在化する人種差別的な潜在意識

1880年代に入り南欧や東欧からの移民が大量にアメリカに流入するのをみたイギリスのイズレイル・ザングウィルは、多様な人種・民族が溶け合って「アメリカ人」に生まれ変わる過程を戯曲の「メルティングポット」に表現した。

ニューヨークなどは「人種のるつぼ」と表現されることもあるが、実際にアメリカで生活してみるとアジア人の子供は主にアジア人と仲が良くなりつるむなど各人種・民族は独自の社会と文化を維持し、並立・共存の形をとっているため、アメリカの現状は「人種のサラダボウル」であると言われる。

中国系の医師への嫌がらせを受け、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院で開催されたアジア系差別を考えるオンラインシンポジウム。「Black Lives Matter」に比べるとまだまだ注目に欠ける。
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中国系の医師への嫌がらせを受け、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院で開催されたアジア系差別を考えるオンラインシンポジウム。「Black Lives Matter」に比べるとまだまだ注目に欠ける。

混じり合って新しい画一的な国家が形成されるより、さまざまな背景を併せ持つこと自体は多様性という観点から考えると実は強みとなる。しかし、現在アメリカでは貧富の差が広がっており、庶民の生活は1980年代以降加速的に苦しくなっている。

その不満はトランプの発していた排他的なメッセージを曲解すると外国人や特定の民族に向けられかねないし、昨今の対中貿易赤字やパンデミックなどの要素もあり、19世紀末から20世紀初頭に白人国家を席巻した「黄禍論」よろしく現在のアメリカでもアジア系が「禍」であると思っている人が大勢いると考えられる。

現に、パンデミックをきっかけにアメリカでは中国系に対するヘイトクライムが相次いでいるが、マサチューセッツ州立大学アジア系米国人研究所長のポール・ワタナベ教授は、これは今回のパンデミックがアメリカ人が恒常的に持っている人種差別的な潜在意識を顕在化させたと述べている。