映画やテレビドラマで「ここだけの話」をする人を思い出してほしい。大抵は、軽い人、信用できない人という風にキャラクター設定されている。『水戸黄門』の「うっかり八兵衛」がまさにそれである。会社の中で「自分はうっかり八兵衛だ」と自覚している人はいない。普通は、自分をもっと格好いい人間だと思っている。しかし、現実の世界でも、この言葉を使うと、そのように見られているということだ。
「ここだけの話」というワードは、極力使わないほうがいい。「そんな風に話すと距離を縮められる」というのは安易なマニュアルレベルの幻想である。イージーで軽薄な言葉だと心得よう。
注意する際は脳をフル活用しなくてはならない
ここまでを読んで、そんなに気を使っては部下に注意することもできない、と思われた方もいるかと思う。実のところ、他人に注意するのはとても大変な仕事なのである。
注意は、相手を思い、相手の感情を斟酌しながら、どういえば受け入れてくれるか、TPOまで考えてするものである。基本的に相手の思考パターン、感情のツボなどを考慮しながら、脳をフルに使って行う。当然、感情のおもむくまま、気の向くままにやっていては、相手の心には届かない。演出の意識が必要になる。
注意をする時には「序破急」を意識するとよい。序破急は、世阿弥が提唱した能の心得である。
特に大切なことは、「最初はそろそろ」である。序盤は雑談に近い、とりとめのないことを話すことから始める。相手の警戒心を解いて、心に防御壁がなくなりつつある時に、こちらの話を相手が受け入れてくれる流れになればスムーズに進む。
可能なら、相手が自分で気付くような話の進め方をする。話が終われば「急」である。さっと切り上げる。後が長くなると、ついつい自分を褒めてやりたくなる。
「俺だからこういうことも気づいて注意してやれるんだよ」
そんな余計な一言が出てしまう。これがいけない。話が最初に戻って繰り返しに、なんてこともある。
注意するときは余裕が必要なので、喫茶店でも深く座れる椅子があってゆったりした空間があるところがよい。職場の狭い会議室や、狭い喫茶店では「序」のときに、余裕が作りにくい。
心地よく注意を受け止めてもらうワザ
そして大前提として注意は難しい、と肝に銘じることが大事だ。演出家は、俳優に対して「ダメ出し」という形で、注意する仕事でもある。俳優が心地よく受け入れる「ダメ出し」にはワザがいる。「こうやって欲しい」と言いたいときに、「どういえば相手は気持ちよくそうするか(できれば自発的に)」を考える癖をつけるのはよい。考えるのは苦しいが、それは仕事なのだ。