欠かせないASEAN諸国との連携

そして、重要なのが日本と東南アジア諸国との関係強化である。その点においては菅首相が最初の外遊先としてベトナムとインドネシアを選んだのは適切であった。この両国での首脳会談ではFOIP構想を発展させ、具体化していくプロセスを説明したという。

その極めて現実的なこととして、インドネシアに初の国産護衛艦を輸出する計画が進んでいる。インドネシア政府は南シナ海の排他的経済水域(EEZ)を航行する中国船を警戒し、違法操業を続けていた中国漁船を撃沈するなど中国の進出に神経をとがらせている。

日本から輸出されると言われているのは2022年に日本で建設が予定されている最新鋭の護衛艦で、無人機を使った機雷除去など様々な任務をこなせるのが特徴だ。日本から4隻を輸入し、4隻をインドネシアでライセンス生産する計画。フィリピンには2020年8月三菱電機の防空レーダーを輸出する契約が成立している。

ベトナム、マレーシア、インドなどとの交渉も始まっている。ベトナム海軍が購入したロシアのキロ級潜水艦の乗員訓練に日本が協力することも行われているようだ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は第二次大戦後日本の復興と発展とともに経済成長をもたらした。その間の日本からの投資や、技術援助が大いに役立っていることは言うまでもないだろう。政治的にも民主主義化が促され、インドネシアやフィリピンでは少なくとも過去20年民主的な選挙で政権交代がなされている。

地球儀の東南アジア諸国
写真=iStock.com/EyeOfPaul
※写真はイメージです

日本とASEANが共有している大切な価値観

日本との結びつきは強く、多くの国民が相互に交流し、その人数もコロナ禍の時期は別として年々増加の一途を辿っている。この良好な関係を更に進展させていくべきだろう。もし、この地域が中国の影響下に陥れば「自由で開かれたインド太平洋構想」の中心部に穴が開いてしまう。

東南アジアと中国の関係は古代からあり、長期にわたって中国人華僑が入り込んで根を生やし、経済界や政界、マスコミなどの社会の基盤を支える重要な位置で数多くの中国系の人たちが活躍している。

歴史的な事実と東南アジア諸国の社会構造を考慮すれば、当面の間この地域の諸国に「アメリカと中国のどちらをとるのか」という二者択一の選択を迫るのは得策ではない。無理強いすると歴史上数々の戦乱を潜り抜けて培ってきたこれらの国々のしたたかなバランス外交戦略に翻弄され、状況がより複雑化する可能性が高い。

日本はこの地域を取り込むよりは、自由と独立、経済の発展を支援する方が自国の利益になるだろう。日本が通常の経済協力だけではなく、海上の保安や、防災、法整備などの協力をしようとしているのはこの考えに沿ったものと言えるのだ。

2006年に発効したASEAN憲章では独立と主権の尊重、法の支配、民主主義の原則の支持、自由と基本的人権の尊重、国連憲章、国際法、国際人道法の支持などがうたわれている。中には民主主義と言えないような国もあるが、ASEAN全体では民主主義と法の支配の原則を支持しており、日本との共通認識が存在している。