この例でも明らかなように日本は必要な技術協力を加盟国に供給可能である。これだけではなく、中国から供給されている様々な素材、サービスなどは加盟国の協力体制を強化することで、円滑に提供できる体制も組めるのだ。

これまで中国から受け取っていたものは必ずしも中国でなければ提供できないものではなく、東南アジア諸国で十分生産・供給可能なものがほとんどである。中国製品が世界に普及しているのは、中国内での経済格差が生んだ低賃金労働者による国際競争力の強さによるものでしかない。

この事実を冷徹に見極めれば、中国へ一極集中している基本原理が見えてくる。従って多様な要素を抱えている加盟国を適切にマネジメントすればバランスの良い効率的な供給が可能であり、少なくとも経済面での中国の重要性は相対的に低下し、中国の優位性は退化の一途を辿ることになるだろう。

多国連携によって得られる大きな果実

この集団の枠組みでは、中国が個々の国に対してこれまでやってきたような経済のカードが中国に対して集団として使えるようになり、対中国政策の選択肢が広がる。いかに中国といえども、周辺諸国をはじめグローバルに結束した勢力には経済的にも軍事的にも抗うことは困難だからだ。

松本利秋『知らないではすまされない 地政学が予測する日本の未来』(SB新書)
松本利秋『知らないではすまされない 地政学が予測する日本の未来』(SB新書)

クアッドを基本としたインド太平洋からヨーロッパにつながるこの構想は中国の一帯一路構想を上回る規模の集団安全保障体制となり、軍事協力のみならず、経済、医療、宇宙開発、先端技術開発、サプライチェーンの多角化と安定化などを図るまさにマルチな機能を持つ枠組みに育てていくべきだろう。

こうなると中国の軍拡と装備の近代化はままならず、当然経済優先となり、軍備の優先順位は低下する。ここが中国に対して軍備・軍縮管理機構の構築を持ち掛けるチャンスとなる。その結果中国が軍備管理機構に参入することになれば、地政学的に見て北朝鮮は中国に引きずられるような形で大きな変化を起こす可能性が出てくる。

この枠組みの中で互いに攻撃しあう意図と意思がないことが確認できれば、日本との国交回復の道筋ができる。となると韓国の役割は明確にこれまでとは違ってくるはずだ。地政学的に見てリムランドである韓国が北朝鮮への防波堤としての存在から解き放たれ、政治的にはフリーハンドとなり、選択肢が一気に増える。

となれば、真の自由を得た民主主義下の国民として選択がどのような方向に動くのか、それこそ韓国国民の意志の問題であり、その結果は自ら負う覚悟を持つべき時なのだ。韓国が被った全ての不幸は1910年から1945年まで続いた日本の植民地支配のせいである……との歴史認識で新しい時代を生き抜いていけるかどうか、韓国は考えるべきだろう。

日本はこれら、クアッド拡大の具体策を実現させていくことを中核とし、未来を見据えた戦略を立てることに努めなければならない。

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