電電公社の巨大なインフラ資産を独占的に受け継いだNTTは、民業圧迫を避けるために「NTT法」という足かせをはめられた。NTT法による縛りはさまざまあるが、代表的なものが「全国どこでも電話サービス」(シビル・ミニマム)の義務だ。離島や僻地にポツンと一軒でも世帯があれば、その一軒に電話を繋ぐために電線や海底ケーブルなどを維持しなければならない。今は安価な無線設備でいいところも多いが、通信キャリアの中でこのような「シビル・ミニマム」の十字架を背負っているのはNTTだけだ。

NTTにとっては「シビル・ミニマム」は大変な重荷だが、おかげで固定投資が他社より大きく先行した。3月からスタートするアハモで、若者などの乗り換えが増加してNTTドコモがシェアを伸ばすのは間違いない。固定投資が終わっているのだから、ユーザー数が増えれば、固定費に対する限界利益(簡単に言えば売上高から変動費を引いたもの)の貢献は大きくなる。ショップ対応をしないということだから変動費はほとんど発生せず、破格の料金プランでも利用者数(=売り上げ)の増加で、通信インフラの稼働率が上がり、経営にとってプラスなのだ。

電電公社時代からの資産という観点からしてもNTTには余力がある。アナリスト達が言っているように、NTTの最大の財産は、実は不動産だ。電話局は全国にあって、しかもほとんどが駅近の一等地。数年前、ソニーが本社ビルをリースバック(売却後も賃貸契約で住み続けること)して資金調達したが、NTTも売却資産に事欠かない。もしKDDIやソフトバンクが対抗プランを出してきて血みどろの値下げ競争に突入したとしても、資金はいくらでも工面できる。

携帯キャリアはアントグループを目指せ

2020年9月、NTTはTOB(株式公開買い付け)で21年3月末までにNTTドコモを完全子会社化する計画を発表した。NTTの澤田純社長が「菅首相が意欲を示す携帯電話料金の値下げに対応しながら成長するため」と語っていたように、完全子会社化による経営基盤の強化も値下げ余力に繋がった。

今後、ドコモは同じくNTTの完全子会社であるNTTコミュニケーションズなどとの連携を深めていくそうだが、以前(プレジデント誌2020年1月17日号)に述べたように、私はNTTの分割民営化の意義というものを問い直し、NTTは再統合する時期にきていると思う。