大数の法則と少数の法則

【岩澤】皆さんの間違いの分析をもう少しやってみましょう。印象の評価によって「1>3>2」と感じたり、「3>1>2」と感じたりする人がいたわけですが、多数は「1>3>2」でした。これはやはり「表3回、裏3回」がでたらめに出ている感じのある1のほうが、「表2回、裏4回」の3より出やすい。多くの人にはそう感じられるということだと思います。

コイン
写真=iStock.com/suteishi
※写真はイメージです

確率論の基本的な定理のひとつに「大数の法則」というものがあります。コインを投げたときに表が出る確率は1/2ですが、実際にコインを投げて、表が出た回数から確率を計算したときに、それが1/2に近い値をとるのは、かなりたくさん投げたときのことなのです。

たとえば1万回コインを投げたとしましょう。そのとき表が出る回数は、たとえば4,852回とか5,123回のはずなんですね。そうすると確率はそれぞれ48.5%、51.2%で、ほぼ50%ですよね。そして直感的に明らかだと思いますが、コインを投げる回数が多ければ多いほど、表が出た回数から計算した確率は50%に近づきます。これを「大数の法則(Law of large numbers)」と呼びます。

さて、この「大数の法則」はサンプル数が小さいときには成り立ちません。たとえばコインを6回投げたときには、結構な確率(=1.6%)で、表が6回連続で出てしまいます。同じように、表は5回ということもあれば、0回ということもある。表が出た回数から確率を計算しても、それが1/2に近い保証はまったくないわけです。なくて当たり前なんですね。

ところが人間はそう感じないのです。サンプル数が小さい場合でも「大数の法則」が成り立っているべきであると感じてしまいます。コインを6回投げたら3回は表が出るべきであると、そのように感じる傾向があるようです。カーネマンたちはこの現象を(皮肉をこめて)「少数の法則(Law of small numbers)」と名づけました(※13)

「表、表、表、表、表、表」の次は?

我々は「少数の法則」的な発想にとても馴染んでいます。たとえばこんな問いを考えてみましょう。今コインを6回投げたら、「表、表、表、表、表、表」となりました。さて、次はどちらが出るでしょう?

【R】裏、です(笑)。

【岩澤】そうですよね(笑)。なぜですか?

【R】そりゃ、7回連続はあり得ないですよ(笑)。

【岩澤】ありがとう。わかっていておっしゃっていただいているんだと思いますが、Rさんのおっしゃったことは間違いですよね。表が出る確率も裏が出る確率も1/2なのですが、「少数の法則」的な発想だと、「7回連続はあり得ない」となるわけです。ところで、次は「表」、という人はいませんか?

【S】表です(笑)

【岩澤】はい、なぜでしょう?

【S】いや、これはもう、「今日は表、キテるわー」みたいな感じですよね(笑)。

【岩澤】そういう考え方、感じ方ですかね。ありますよね。この場合、表が6回出たことで、Sさんの頭の中ではこのコインが、表の出やすい特別なコインということになってしまった(笑)。従って、7回目は当然表が出るべきなんだという発想になってしまっているわけです。実はこの感覚は、株式市場の参加者の間に広くみられる発想です。そこで、これから投資信託に関するケースを議論したいと思うのですが、その前にもうひとつだけ用語の説明をしておきます。