なぜ「1>3>2」と答えた人が一番多かったのか

【岩澤】ありがとう。まず、一番多かった意見の「1>3>2」の人に聞いてみましょう。なぜそう思われたのか、理由を聞かせてください。

岩澤誠一郎『ケースメソッドMBA実況中継 04行動経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
岩澤誠一郎『ケースメソッドMBA実況中継 04行動経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

【M】システム1を使って直感的に考えてしまいました。

【岩澤】しまいました?(笑)。どのようにシステム1を使ったら「1>3>2」になりましたか?

【M】同じものが連続して出てくるケースはなかなか考えにくいのではないかと思い、連続性がまばらなものから順に出やすいと考えました。

【岩澤】表が6回も連続しているから2が起こりにくそうなのは明らかですよね。3より1のほうが出やすいと考えたのはなぜですか?

【M】3は、裏が3回続いているからです。

【岩澤】3は「裏、裏、裏」。ここが不自然だと。1は裏が2回続けて出ているだけだから、なんとなくもっとも自然に感じたということですね。同じ「1>3>2」のNさんはどうですか?

【N】3は裏が4回出ています。1は表も裏も3回ずつで、こちらのほうがよりあり得ると思いました。

【岩澤】1は表と裏が3回対3回。でも3は表が2回で裏が4回。1のほうが出やすいに決まっているよねと。説得力ありますね。今度は「3>1>2」のPさんに聞いてみましょう。

【P】1は表と裏がバラバラに出ていてなんかこう、少しわざとらしいというか(笑)。3のほうが表2回、裏4回ってあたりにリアルさを感じまして「3>1>2」としました。

【岩澤】表2回、裏4回ってほうがリアルに感じるわけだ。おもしろい感性ですね(笑)。わかりました。では今度は「すべて一緒(1=2=3)」の人、反論してください。

【O】表が出るのも裏が出るのも確率は1/2で、1)の「表、裏、裏、表、裏、表」の順で出る確率は1/2の6乗=1/64です。2)は「表、表、表、表、表、表」ですが、これもこの順で出てくる確率は1/64、3)も同じですね。

表と裏の2通りが出る機会が6回、確率はどれも同じで1/64

【岩澤】ありがとう。わかりやすかったですね。正解です。

言い方を変えて解説しましょう。コインを6回投げたときに、表と裏の2通りが出る機会が6回あるから、パターンの違う順列を全部書き出してみると64(=2×2×2×2×2×2)通りあります。その64通りの順列のひとつが出る確率はどれも同じで1/64。そして上の3つはどれもその64通りの順列のうちのひとつですから、出る確率はどれも1/64、というわけです。しかし皆さんの中の半分以上の方は、この3つの出やすさが同じとは思わなかったようです。なぜそう思わなかったのかは、皆さんの議論から明らかですよね。「表、表、表、表、表、表」が目を引くわけです。目立ちますよね。これは印象です。そしてこれを「目立つ」と感じるのは皆さんのシステム1なんです。

そしてここでも、間違えてしまった皆さんの心の中では「属性の置き換え」が起きています。皆さんに与えた課題は「出やすさの評価」、つまり確率の評価でした。しかしこれは難しい仕事です。そこで皆さんは、確率の評価の代わりに、印象の評価を行ったわけです。